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蜥蜴人族-Lizardman-

戦闘の描写が短くなってしまう病

 目を覚ました信久は自分が生きている事にホッと息を吐き辺りを見回した。

 見たことのない場所だ。木製の柱や梁に泥を乾かし作られた壁、藁葺きの屋根。日本の古民家より粗末な作りの家だ。痛む傷口を庇いながら起き上がる。黄ばんだ包帯が巻かれ幹部は赤黒く染まっている。シャ・リザールあたりが手当をしてくれたのだろうと予想して藁のベッドから起き上がる。チクチクしていたせいか少し背中が痒い。

 家を出るとざわりとざわめきが信久を包んだ。蜥蜴人族達(リザードマン)が遠目に信久を見つめ何事か話している。先日の件で蜥蜴人族が人族(ヒューマン)に悪感情を持っていることは理解していたが、見ず知らずの相手に一方的にそのような扱いを受けるのは存外堪えるものだった。

「おお、起きましたか」

「あんたが手当てをしてくれたんだろう?ありがとう助かったよ」

「いえ、治癒士である長老がやってくれました。私では応急手当くらいしか出来ませんからね。お加減は?」

 日常生活程度ならと答え見回す。シャ・リザールと話していても誰も近づいてこない。余程根深い問題なようだ。

「それでは約束通りに色々とお教えしたい所なのですが、長老が起きたら呼べと仰っていたので付いてきてください」

「? 分かった」

 なんだろうと首を傾げシャ・リザールに付いていく。そんな信久の足元にコロコロとボールが転がってきた。拾い上げ誰が落としたのかと探すと、どうしようかと慌てている子どもとそれを見つけ背後へ子どもを隠そうとする親を見つけた。渡しに行ったり投げたりするといらぬ騒ぎになりそうだなと思い、同じようにやんわりと子どもの方へ転がしてやる。親の陰から素早くボールをキャッチしじっと信久を見つめてくる。

「ありがとー」

 お礼を言われるとは思ってもみなかった信久は目を丸くして驚くが相好を崩し、

「どういたしまして」

 嬉しそうに返事を返した。ほんのちょっぴり態度の軟化した子どもに幾ばくかの合間傷の痛みを忘れていた信久はシャ・リザールの言う長老の家の前まで来て傷の痛みを思い出し眉間に皺を寄せていた。

 他の家屋より小綺麗な外壁に緊張する。この村の特別な人物と会うのだ少し緊張したところで何もおかしくはないだろう。

「お入りください。長老がお待ちです」

「あ、うん。分かった。礼儀とかちゃんとやった方がいいよね?村長でしょ?」

「? 村長ではありませんが、この里でもっとも長く生き、物知りなお方です」

 それはある意味で村長の様な人物なのではないかと思ったが、口には出さず緊張した面持ちで家へ入った。中は広く一部が岩山を削りスペースを増やしているようであった。更に奥、四角く削られ祭壇のようになった場所の前に神官の様な服を着た老いた蜥蜴人族が居た。彼が長老なのだろうと察し信久は会釈をして近づいた。

「座るとよい。傷はまだ癒えておらぬじゃろう?」

「はあ、それじゃあお言葉に甘えて」

 長老に倣い胡座で座った。自分より頭一つ程小柄な長老に信久は何故か親しみを覚えた。

「シャ・リザールを助けてくれた事にまずは礼を言わせてもらおう。有難う。あやつはこの里で一二を争う戦士じゃからな。彼が無事で皆喜んでおる」

「あ、いえ。俺にもメリットがあるから助けただけですので気になさらないでください」

「メリット?聞きなれぬ言葉じゃな」

「俺の居た場所の言葉で、なんて言えばいいんだろう。利益があるとか、利があるとかそういう感じです」

「ほう、なるほど。して、その利益とは良ければ聞かせてくれぬかのう」

 なんか食いつくなと信久は疑問に思いながら答えた。

「何も知らないから色々とこの世界のことを教えて貰うことを条件に手を貸しました」

「やはりと言うべきかのう……ぬしには悪いが腕の痣は見せてもらった。またアレを見ることになるとは思ってもみなかったがのぅ」

「あのバングルの事を知っているんですか!?」

 立ち上がり詰め寄ろうとする信久の先を制しヒュ・プランは話し始めた。それは前の持ち主の話だった。

 翠の聖騎士。彼はそう呼ばれていた。本名をダン。孤児出身ではあったが初めての魔物掃討戦以来頭角を現し聖騎士の位まで登りつめたのだそうだ。蜥蜴人族でも見上げるような大男で巌の様な顔で唇を真一文字に結ぶ彼は厳格な僧だと思われていたらしいが、なんとも不器用で子どもの前では巌のような顔も困った笑みを浮かべるただの男だったという。

「そのバングルはエルセフィーナと言うそうじゃ」

「エルセフィーナ?女性みたいな名前ですね」

 素直な感想を告げ痣から現れたバングルを撫でる。艶やかな光沢は部屋を照らす灯を反射してキラリと光った。

「ワシも詳しい事は知らぬのじゃが、ダンが言うには大昔からあるものらしい。それに呪われた腕輪だとも言っておった。分かるか?」

「まあ、はい。実際に観ましたから持ち主がどうなったのか」

 見せられた気持ちの良いものではない光景を思い出し顔を歪める。無念の中に沈む11人の最後、自分があのようになってしまうのかと考えると嫌になる。

「ダンさんの最後も見ました。彼を殺した相手に吐き気も覚えた。卑劣だ。自分たちより強い者を嵌める為に弱い奴を使う。腹が立った。ムカついた。あークソ!言葉にできないのが腹立たしい!」

 苛立たしげに頭を乱暴に掻きむしり床を叩きかけ止まる。

「……すみません。取り乱しました」

「いや、構わんよ。君はとても正義感が強いようじゃ、ダン達先代のようにならぬ事を祈っておるよ」

「あー……いや、そんな出来た人間じゃないです。その辺の奴らと同じだからこそ腹立たしいだけです。でも心遣いありがとうございます」

 バツが悪そうに信久は頭を下げた。ヒュ・プランはそれを微笑ましく思いぽんと膝を叩いた。

「この話は終わりじゃ。傷が癒えるまで里でゆっくりしていくといい。シャ・リザールが面倒をみてくれるじゃろう」

 笑顔で告げるヒュ・プランに礼を言い家を後にする。住人たちの反応を鑑みればあまり外へ出るわけにはいかないだろう。だが、己の身を守るくらいの技術は会得しておきたいのは本心だ。シャ・リザールに頼めば教えてくれるだろうかと考えながらうろ覚えの道を帰る。道に迷いつつもなんとかシャ・リザールの家に着くとノックをして遠慮がちに中へ入った。嗅ぎなれぬ匂いがふんわりと漂ってきた。なんだろうと誘われるように歩みを進めると台所のある土間でシャ・リザールが鍋をかき回していた。

「シャ・リザールさん?」

「おお、おかえりでしたか。そろそろ料理が出来上がりますので暫しお待ちください」

「えーと?それは?」

 ちらりちらりと見える茶色い液体の中で浮き沈みする白くブヨブヨした丸いモノや茶色く艶のある外骨格に引き攣る顔をなんとか見せぬよう努める。

「ご馳走ですよ。シェルフの幼虫と鎧虫煮込みです。美味しいですよー?」

 中身を聞き信久の顔が完全に引き攣った。日本でも虫が食べられることや友人が食べた話も聞きはしていたが、知らぬ間に自身がその試練を受けることになっているとは思ってもみなかった。しかも好意での物だ。無碍にはしたくない。せっかく用意してくれたのだしっかりと頂きたい。

 そんな固まって動かない信久にシャ・リザールは笑い始めると頭だけを動かし言った。

「冗談です。ちゃんと別に用意してあります。人族は昆虫を食べませんからね」

 言葉通り別で用意されていた汁物に舌鼓を打ち、数日シャ・リザールの下で療養に努めていた時の事だった。昼間シャ・リザールに包帯を交換してもらっていると、ふと頭を巡らせ里の外の方へシャ・リザールが視線を向けた。丸かった瞳孔が細くすぼまっていく。

「シャ・リザールさん?」

「ノブヒサ殿、先日の者達が来たようです」

「シャ・リザールさんに脱走された奴ら?なんでまた」

 不思議そうに聞き返す信久に苦笑する。

「私は年ですが、体は大きく力があります。きっと大金をはたいて購入したのでしょう。その逃げた私を取り返す為に来たと考えるのが正しいでしょうな」

「……なるほど。俺の居た場所じゃ奴隷なんて制度はとうの昔に消え去ってるけど、こっちの人からすれば高価な共有資産が盗まれたというわけか」

「その通りです。その為来たのでしょう。ただ金属同士が擦れ合う音がしました。前回よりも装備を整えている……もしくは、誰かを雇ったのかもしれません」

 音のみでそれだけ分析するシャ・リザールになるほどと頷き信久は考える。相手は人間できっと自身は躊躇い足を引っ張ってしまうだろう。ならば、今回も補助に回るべきだ。前回と同じく嵐刃解放を使い里を守ることが最適だ。それをシャ・リザールへ伝え役割分担を終えると2人は家を出て里を囲う木の防壁の隙間から相手の様子を覗き見た。人数は7名。金属と革で作られた鎧に身を包む前衛らしい男が2名。革鎧のシーフ風の男が1名。ローブを着て色違いの杖を持つ男が2名。案内役らしい村人が1名だ。シーフの男と前衛の男達はシャ・リザール達蜥蜴人族の戦士が何とかするだろうが、問題はローブを着た杖を持つ2人の男だ。未だに見たことはないが魔法を使ってくるのだろうと予想できる。前回と同じ嵐刃解放の風壁で防ぎきれるだろうかと不安が首をもたげる。

「ノブヒサ殿」

 ハルバードの様な長柄の戦斧を担ぎ今まさに出ようとしていたシャ・リザールが振り返り呼んだ。

「シャ・リザールさん?」

「大丈夫です。貴方なら出来ます。それに長老がそばに居るので前回のように倒れるということもないでしょう。心配しないで下さい」

 微笑みシャ・リザール達は里の外へと出て行った。1人残された信久は目を閉じバングルを撫でた。シャ・リザール達の様に他人を手にかけられるような度胸はない。出来る事をやる。今はそれだけを考えることにした。

 里の中央広場へと来た信久を蜥蜴人族たちの視線が体を打つ。一瞬怯みかけたが意を決して広場の中央へ立つ。

「……いくぞエルセフィーナ」

 粒子を集め手に出すのは風の剣。翠の宝珠がはめ込まれたなんの変哲もないただのロングソードは先日より鮮やかな翠に感じた。

 広場の中央で突然剣を出した信久に周りにいる蜥蜴人族の大人たちが警戒を露わにするが、それを白髭のヒュ・プランが止めた。剣に集中し周りまでは見えていない信久は気づかず力を解放する。

「嵐刃解放!エルセフィーナ頼むぞ!」

 シミターに変化した剣を地面へ突き立て範囲を指定する。範囲は里全域を覆う大きさを指定したかったが、無理そうだ。まだ扱いきれていないのかそもそもそれだけの範囲をカバーすることを想定されていないのか。それは分からないが男たちが居る面はおおよそカバーすることは出来た。傷が開き血が流れる。歯を食いしばり痛みに耐えシャ・リザール達が無事に帰ってくるよう思い信久は門の方へ視線を向けた。



 シャ・リザール達はそれぞれに武器を持ち門から外へ出た。

「すまない。私のせいで皆に迷惑をかける」

「構わねぇさ。あんたは俺たちの里一の戦士だ。昔から憧れてたからな、並び立てるのはとても嬉しいよ」

「そうか……ありがとう」

 一言礼を告げると男たちへ視線を向けた。男たちは嗜虐的な笑みを浮かべシャ・リザール達を見ていた。

「仲良しごっこは仕舞いか?トカゲども」

「エルフや狼人族なりだったら女で許してやったんだがなァ。トカゲは見てくれがあんなだし売れねェしよ。殺すしかねェよなァ?」

 前衛の男二人が口々に言いながら武器を抜く。対しシャ・リザール達は無言だ。シャ・リザール自身今の彼らの発言は腹に据えかねているが堪え冷静に武器を抜き構える。前衛を早々に突破し出来るだけ早く後ろに陣取る魔術師を殺すべきだ。人族と違い鱗に全身を覆われている蜥蜴人族ならば武器からほんの少しばかり耐えられはする。対して魔術には大した効果などなく人族と同程度の効果を受けてしまう。

 判断を下したシャ・リザール達の動きは迅速だった。若い蜥蜴人族の2人に任せシャ・リザールは魔術師へと突っ込む。戦斧の刃先は下げ地を這うように駆け抜ける。だが相手も自身たちのアドバンテージとウィークポイントを理解している。

 シャ・リザールの行く手を阻むようにシーフ風の男が立ちふさがった。シャ・リザールは速度を上げシーフ風の男へ肉薄した。男の持つ武器はショートソードとダガーの二刀流、手数では不利だが一撃の威力は戦斧の方が圧倒的に上。男はそれを理解しているからこそ戦斧のリーチの内側で戦おうと判断していた。故に自分から戦斧のリーチより内側へシャ・リザールが飛び込んだ時に反応が遅れた。男がダガーを振るうより早く握りしめた左拳が男の顔を穿つ。一瞬気をやりそうになった男だったがなんとか堪えダガーを振るった。殴った腕を引きダガーを受け致命傷を防ぐ。そのまま腕を体へ引きつけ肩から男へぶつかった。戦斧を両手で持ち直し柄で男の胸部を打ち付け、その反動を利用し左手を起点に戦斧を振り下ろした。なんとか柄のダメージにも耐えていた男の革鎧は脆くも一撃で粉砕され戦斧はその体を叩き切った。

 血しぶきをあげ事切れた男を放置しシャ・リザールが近づくより早くそれは起こった。

 2人の魔術師を中心に光り輝く魔法陣がいくつも展開され重なり大きく複雑な陣が構成され赤く輝く。

「しまった!?遅かったか!!」

 杖が輝き火炎が収束する。凝縮され光球となった炎は上空へ登ると里へ向け一直線に飛来した。里へ火球が直撃するより前、何かにぶつかったように火球が潰れた。一時的に目に見えぬ何かと拮抗した火球だったが競り負け小さく圧縮されついに消えた。その光景を呆然と見つめ魔術師は崩れ落ちた。きっと彼らが操る術の中で最大の術であったのだろう。それをいともたやすく防ぎ周りへ被害を出すこともなく抑え込んでしまった。その事実が彼らの自信を折るには十分だった。

 そしてその隙を見逃すほどシャ・リザールも甘くはない。大きく振りかぶり振り下ろされた戦斧は彼らの身体をたやすく引きちぎった。地面にぶちまけられた肉塊が見える位置でシャ・リザールは声を張った。

「お前たち以外の傭兵は死んだぞ!去るのならば殺しはしない。だが、まだ武器を振るうというのであればお前たちも殺してやろう!どうする!!」

 シャ・リザールの言葉に男たちは怯んだ。それぞれが相対していた蜥蜴人族の戦士達から一歩ずつゆっくり離れると警戒しつつも彼らは去っていった。1人残された村人は状況に追い付けていないらしく呆然と尻もちをついている。蜥蜴人族の3人に囲まれ粗相をすると悲鳴をあげ森へと我武者羅に走り姿が見えなくなった。

「終わったと考えたいが、報復があるかもしれねぇなぁ」

「十分にあり得るだろう。しかしだからと言って――」

 シャ・リザールが言うより早く焦げ茶色の蜥蜴人族が言った。

「あの人族の兄ちゃんをこの里へとどまらせる理由にはならねぇな。だろう?」

「そうだな……個人的に助けてもらった恩もある。それに今回だって私が止められなかった魔術を防いでもらった。これ以上世話にはなれんだろう?心情的にも戦士としても」

 3人で解決策はないものかと頭を突き合わせ考え込んだが結局思いつくことなくとぼとぼと里へと戻っていった。

 里へ戻ると出血で顔色の悪い信久が出迎えたのは言うまでもない。

魔術と魔法は似たものだけど違うのじゃーという設定

たぶんその内登場人物が信久君に教えてくれるはず

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