小粋な常套句
雲と海との交じる線、海岸沿いを走る車両
降り出す前の曇り空
チェーホフの銃弾が飛び交う欺瞞
もう二度と来ないとちいさく言った
テールライト、帯のなかに
埠頭から伸びる谺の行方
私の雑多な小部屋の中に
置物がひとつ増えてしまった
繰り出す聴衆の嘲笑は常に
咎の岸壁を壊そうとしてくる
ねえせめてやわらかいもので
私達を言い包めていけたなら
いいよね
寒すぎる街は少し肌に合わない
人に宛てた詩は誤魔化しが過ぎる
煤けた空気の匂いをきっと君は
忘れてしまうだろう
どこにでもあることで
泣けるぐらい君は大人になったんだよ
ありふれた科白が君のものになったんだよ
もう、詩なんて読まなくてもいい
好きなDVDを観て過ごせばいい
愛はそこらへんから拾って食べてください
何もわからないくせに
何もわからないふりをして
その実何かわかっているように振る舞う
取り繕っては綻びて
区画された町に戻っていく
君の人格は分類されてしまう
どうしようもないほどに
他のひとの恋が気になってしまう
海風が近すぎて
全て攫っていってしまう
それは別れる際の
小粋な常套句




