《中学1年生編》
【クリアside】
ご隠居様からの言伝てを預かって、朔也様へ報告する為に離れの廊下を足早に歩いていた。
…………ん?どうして、楓ちゃんは障子の影にいるんだろ…?
大和は…話を、してるのか。
ちょっとした悪戯心で……いや、話の邪魔をしないように気配を消して近付いた。
何、これ…え?僕の話!?
なんか、恥ずかしいな…
昔の自分の事が、大和の口から語られていく。
ただ…何でそんな、難しく言うのさ…
そして、無駄に長いよ…
はぁ…いつまでも、隠れていても仕方ない。
そろそろ、いいかな?
タイミングよく、大和の説明が途切れた。
「その後は、どうなったんですか?」
う~ん…道場に行かなくなって、それから…
「ぶちギレて、不良になったんだよ」
あ、驚いてる。
ちょっと、気分いいな。
「あなたは…どこから、聞いていたのですか?」
聞いてた事は、バレてる訳ね…
睨んでくる大和に苦笑を返して、頭をかいた。
「どこから、ねぇ…僕が才能を開花させて、頭角を現したって辺りかな…?」
拗ねてる大和の頭を軽く撫でると、また睨まれちゃった。
「……話の腰を折ってすまないが、お祖父様と話は出来るのか?」
あ、そうだった…ちゃんと、報告しなきゃ…
大和より少し前の位置に、正座して一礼をする。
「本日は、お時間が取れないそうで…ご隠居様からの言伝てを、お預かりして参りました」
朔也様の眉間のシワが、深くなったような…
「……聞かせてくれ」
心なしか、声も若干…低く聞こえる。
「かしこまりました。ご隠居様の言伝ては…『明日の朝食時に、話をしよう』との事です」
言伝てを言い終えると、後ろにいる大和からの視線が背中に突き刺さるのを感じた。
今回のいざこざで、腕に擦過傷までこさえたんだから…お前が、言いたい事は分かる。
分かるけど…その怒りは、持ち前の理性でなんとか抑えてよ…
「……分かった。桐生、話を中断させてすまなかった」
「あ、ううん!俺に、謝らなくていいよ」
そういえば、僕が壊れていったのって…今のこの2人と、同じくらいの時だったなぁ…
期待される事が苦痛になって、誰にも相談なんか出来なくて…
何もかもが信じられなくなった時、僕は今までの自分を捨てた。
大人達に言わせれば、単なる《反抗期》で片付けられそうだけどさ…
あの頃の僕にとっては、人生最大の試練だったんだよ…
下手な、意思表示だったな…