《中学1年生編》
【大和side】
「……………」
言い辛そうに視線を逸らした朔也様が、助けを求めるように私を見てくる。
何と答えればいいのか、分からなくなったのだろう。
「喧嘩などでは、ありません。クリア様が、この屋敷に来られなくなったのです」
私が答えた事によって、桐生様が後ろを振り返った。
「理由は…聞いちゃ、駄目ですか?」
「いいえ…クリア様本人にも『言っていい』と、許可を頂いております。どうされますか?」
桐生様にではなく、朔也様に向けて問いかけた。
俯いていた朔也様が、弾かれたようにお顔を上げる。
「……いつ、そんな許可を?」
ご存知ないのも、無理はない。
あの時、私とクリア様しかいなかった。
「2ヶ月半前に、クリア様と早朝の走り込みをしました。その終了後に話をしておりまして、その時に……」
「ちょっと、待ってよ!私、聞いてないわよ!?理由も、許可についても!」
楓…せめて、言い終わらせてくれ…
遮られはしたけれど、大体の話は伝えられたと思いたい。
「お前、少しは待てないのか?朔也様に、お伝えしていた言葉を遮るなよ」
言い終わるまで、何秒もかかるもんじゃないだろうに…
「あ…も、申し訳ございません!はしたない真似を、致しました…」
失態に気付いた楓は、朔也様に向けて頭を下げた。
朔也様は、無表情で楓を見ている。
その表情からは、感情が一切読み取れない。
今、何を考えておられるのか…
「……問題はない。だが…水無月の疑問については、すまないが後で話してくれ」
「は、はい!申し訳ございません…」
後が、面倒くさい事になりそうだ…
楓から視線を外した朔也様が、今度は私の方を向かれた。
「……高木、お前の返事は?」
そう言われては、了承するしか道はない。
「かしこまりました」
一旦頭を下げて顔を上げた時には、楓は朔也様からは見えない障子の影にいた。
視線が合うと、あからさまにそっぽを向いた。
なぜ、お前が怒っているんだ…
これはご機嫌をとるのに、相当骨が折れそうだ。
「……主治医の息子として、産まれた時から進むべき道が決められていた。《品行方正》《文武両道》をずっと求められ続けて、8年前…ついに、耐えられなくなってしまった」
朔也様の説明に、桐生様は首を傾げた。
「うーん…《品行方正》を求められるのは、まだ分かるよ。だけど、何で《文武両道》?」
その説明は、私がしよう。