《中学1年生編》
この勝手に動く口を、誰か止めてほしい。
泣かせたい訳じゃない。
悲しませたい訳じゃない。
でも、今…自分の目の前で、自分の言葉が原因で…大切な人が、泣いている。
「……ッ…申し訳、ございません…」
違う…
謝らなければいけないのは、俺の方なのに…
「……もう、行ってくれ…これ以上いたら、何を言い出すか分からない」
こんな事しか言えない自分が、どうしようもなく嫌いになるんだ…
「かしこまりました…」
遠くなる足音を聞きながら、謝罪の言葉を頭の中で繰り返す。
いくら感情を隠す事が上手くなっても、どんなに努力しても心までは鍛えられない。
偉そうな態度に、年不相応な話し方…
命令ばかりしているくせに、自分では何も出来ない。
いつまでも過去の悪夢に怯えて、素直に人と関われない。
苦しい…助けて…
誰か…
目頭が熱くなって、頬を涙が流れていく。
自分を、変えたい…
今の自分は、本当の自分なんかじゃない。
ーー19時00分・朔也の部屋…
泣き疲れて眠っていたせいで、腫れぼったくて重い目蓋を開ける。
時計を見て、それ程時間が経っていない事に安堵した。
とりあえず、顔を洗って来なければ…
それから、泣かせてしまった水無月に謝って…
……高木が知れば、怒るだろうか?
一時の感情に任せて、人を傷付けた。
それとも…それすら、なかった事にされる?
「朔也様、こちらにおられますか?」
……ッ…!!
襖の向こうからかけられた声に、驚いてしまった。
その声は、紛れもなく高木の声だったから…
「……何の用だ?」
「楓の事で、少々お話を伺いたい事が…」
既に聞いているなら、話は早い。
怒られるにしても、言いたい事は伝えた方がいい。
「……入れ」
「失礼致します」
ゆっくりと襖が開き、高木が一礼をして部屋に入ってくる。
1歩部屋に入った所に正座をして、開けた襖を閉めていく。
ほんの数秒の動作…
いつもなら対して気にならない一連の動作が、今はとても長く感じられる。
「……高木、お前は…俺を、恨んでいるか?」
水無月同様、高木の父親も俺を守らなければ死なずに済んだ…
自分達だけなら、逃げれたはずだ。
「私も楓も、朔也様に対して恨む事などありえません。父上は、職務を全うされました。今の私にあるのは、その誇りと…そんな父上のようになりたいという、憧れの感情だけです」
誇りと、憧れ…