《中学1年生編》
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ーー5月5日・16時00分…
美空君の家に着いて、正直驚いた。
まず最初に感じたのは、『何時代の建物!?』って事で…
呆けていた俺を見かねて、高木先輩が…
『古そうに見えても、7年半前に大規模な改修をしています』と言った。
そして今…俺は茶室と呼ばれる部屋で、なぜか高木先輩からのおもてなしを受けている。
何が、どうしてこうなった!?
「あ、あの…美空君は、どこに?」
迎えに来てもらってから、さっきまでいたのに…
家に着くなり美空君はどこかへ行って、俺はこの部屋に通された。
その後すぐに来たのが、高木先輩で…
「朔也様は、お着替えをなさっております。今しばらく、お待ち下さい」
き、着替え…?
迎えに来てくれた時の格好だって、別に着替えなきゃいけないようなものじゃなかったのに?
「はい…」
丁寧な動作で、高木先輩が茶を点てる。
本当、何でも出来るんだな…この人…
茶碗にお湯を入れて、何かの道具でかき混ぜてる。
小さな、箒みたい…
「この道具が、気になりますか?」
「……ッ…!?な、何で?」
この人、本当怖い…
「何でって…ずっと、視線が手元に集中してましたから」
見過ぎてて、バレたのか…
気にはなるけど、聞きづらいな…
でも…そんな事ばかり言ってても、何も始まらない!
「あ、あの!その、箒みたいなの何ですか?」
箒じゃないだろうけど…
他の表現が思い付かなかったから、最初に感じたままを言葉にした。
怒られるかな…
「これは、茶筅と呼ばれる道具です。茶碗に入れた茶葉と湯を、よく混ざり合うようにかき混ぜる為の物ですよ」
怒られなかった…?
そればかりか、今分かりやすいように解説された?
「あ、ありがとうございます」
人間とは、不思議な生き物だ。
苦手な人が少しでもイメージと違う事をしただけで、印象が180度変わってしまう。
高木先輩が点てたお茶を飲み終わった頃、足音が近付いてきた。
音もなく障子が開いて、着物姿の美空君が茶室に入って来る。
「朔也様、こちらへ」
高木先輩が差し出した座布団にゆっくり座った美空君の後ろで、1人の男性が障子を閉めた。
大人の人…?
外国人?
あ、まさか!?
「あの…あなたが、クリア…さん…?」
格好いい…
全然、変態や変人には見えないけど…
「初めまして。神野 クリアと申します」