《中学1年生編》
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ーー1時間半後…
「とうちゃ~く!で、どうだった?」
どうも、こうも…
「いつも…あんなに、色んな人に話しかけられているのですか?」
すれ違う人が、次から次へとクリア様に話しかけて来た。
「うん…まぁね…昔の事を考えたら、避けられたりしてもおかしくないのにさ…みんな、優しいよね。本当、ありがたいよ」
優しいと言うより…あなたが昔のままだったなら、避けられていたでしょうね。
「今のあなたは、あの頃とは違うでしょう?見るべきなのは、その人の今だと思います」
首にかけていたタオルで汗を拭っていたクリア様は、その手を止めて空を見詰めた。
「『その人の今』か…でもね、あの頃の自分も僕自身なんだよ。葛藤やプレッシャーも、今でも僕の中にあるんだ。父さんが、あまりに立派過ぎて…押し潰されそうなくらいにね…」
乗り越えたと、思っていた。
そして…本人にとって昔の事は、忘れたい事なのだと…
「昔の事を、忘れたいと…忘れてほしいとは、思わないのですか?」
空を見ていたクリア様が、ゆっくりと私の方へ振り返った。
「……思わないよ。いや、忘れてはいけないんだ。間違った選択をしたのも、僕自身なんだから…自分が責任をとらなきゃ、誰がとってくれるのさ…」
この人は、強い…
体術だけではなく、心も強過ぎる。
自分の間違いに、自分で気付いて…そして今、信用を回復させる為の努力を惜しまない。
周囲の人達にも、その事が伝わるから…先程のように、色んな人がクリア様に話しかけて来るんだ。
「私は…昔の事を言ってはいけないと、勝手に思い込んでおりました…」
「言っていいんだよ。もっと、責めたっていい。朔也様やお前達が、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていた時に…僕は、呑気に無断外泊して遊んでたんだから…」
それでは、完全な責任転嫁だ。
あの事件は、クリア様が引き起こした訳ではない。
「当時中学生だったクリア様のせいにする程、私は落ちぶれてませんよ。朔也様も、あなたのせいだと言われた事はないはずです」
慰めたつもりが、クリア様の表情は暗くなる一方で…
「直接は言われなくても、あそこまで信用がないと…気になるじゃないか…」
クリア様の信用がないのは…
「半年前、酔っ払った挙げ句…泣きながら、朔也様に抱き付かれた事を聞かれていないのですか?」
「……父さんから、聞いてます…ごめん…」