《中学1年生編》
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ーー5月1日・放課後…
う~ん…
高木先輩に…一撃………無理じゃない?
あの人…空手部に入部早々、組み手で部員全員を瞬殺したって…
何でその事を、昼間の時点で思い出さなかったんだぁ!
ーーゴンッ…!
勢い余って、机に頭をぶつけてしまった…
痛い…けど、そんな事どうでもいい…
あと10ヶ月で、どうやって高木先輩に一撃入れればいいって言うのさ…!
誰か、教えて!
「……凄い音がしたが、大丈夫か?」
美空君…
高木先輩のご主人様…
「大丈夫…」
「……随分、深刻な顔をしているな。悩み事か?」
悩み事と言えば、悩み事なんだけど……
……ッ…そうだ…!
「ね、ねぇ…高木先輩の事で、色々聞きたいんだけど…今、時間あるかな?」
「……時間はあるが…高木の事なら、俺よりも水無月に聞いた方がいい。車で待っているはずだから、一緒に行こう。ついでに、自宅まで送って行く」
優しいなぁ、美空君…
話聞いてくれるだけじゃなく、自宅まで送って……
ん…?自宅!?
今日って、家族全員いる日だ…
そんな所に車で帰ったら、質問責めになるよ…
「送るのは、いいよ!面倒くさい事に、なっちゃうから!」
「……面倒くさい事って、何だ…?」
やっぱり、それ言わなきゃいけないよね…
「えっとね…うちの家族、人の世話焼くの大好きでさ…車で帰ったりなんかしたら、格好の標的になるんだよ…」
あ~…美空君、考え込んじゃった…
折角の厚意を断った理由が、家に家族がいるからなんて怒って当然だよね…
「……家まで行かなければ、問題ないんだな?」
「え…?うん…怒ってないの?」
こんな、自分勝手な事言ってるのに…
「……怒る?人には、それぞれの事情があるものだ。それを無視して、こちらの都合を押し付けては…《あの人》と、同じになってしまう…」
《あの人》って…?
美空君、誰の事を言ってるの?
聞きたいけど、気軽に聞ける雰囲気じゃない。
いつか…美空君から話してくれるまで、焦らず待っていよう。
「車に、行こっか。水無月先輩が、待ってるんでしょ?遅くなると、また心配させちゃうからね」
「……そうだな。高木に一撃入れる方法が、見付かるといいな」
それだよ…
うちの家族なんかより、もっと大きな問題だ。
体を鍛えろって、言われたりして…
とにかく今は、味方をしてくれるらしい水無月先輩を信じよう。