《中学1年生編》
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屋上へと続く階段の踊り場に戻って来ると、朔也様が私の方へ駆け寄って来られた。
「……どこへ、行っていた…?」
「クラスメイト様にお伝えしたい事があり、視聴覚室前で話して参りました」
嘘ではない。
朔也様の心情を探るような視線が、私を見詰めている。
「……何もなかったのなら、それでいい。桐生、すまなかった」
おそらく…いや、絶対に…話の内容について、お気付きになられている。
「あ…ううん!こっちこそ、ごめんね…」
「……構わない。別の話をしよう」
向けられた視線に、一礼で答える。
そのお心遣いが、嬉しかった。
「もう、驚かせないでよね…バカ…」
「善処する」
まだ文句を言いかける楓に背を向けて、手帳を見るフリをして誤魔化す。
「……桐生…お前には、兄弟はいるのか?」
「兄弟?いるよ。10歳の弟と、7歳の妹…今が丁度生意気盛りで、苦労ばかりしてるよ…もう、大変…」
……………なぜ、朔也様はこちらを向いている?
クラスメイト様のご兄弟の話に、私は関係ないはず…
「……苦労か…俺も、苦労かけたのかな…」
朔也様…?
一体、何を…?
「え…?美空君って、兄弟いるの?」
ご兄弟など、おられる訳がない。
…………ッ…!!
まさか…!
「……血の繋がりこそなかったが、俺には…幼い頃、『兄』『姉』と呼んだ者達がいた」
再び私達に向けられた視線に、朔也様が言わんとしている事を理解した。
「ぅ……グスッ……朔也様ぁ…」
こんな場所で、泣き崩れられても困る…
「お前は、その涙脆さを何とかしろ…」
「…グスッ……ヒック…だ…だってぇ…」
朔也様も、お人が悪い…
表情は変わっていないが、目が悪戯に成功した子供のようだ。
「朔也様…私達で遊ばれるのは、お止め下さい」
「……ハイ、ハイ。……なぁ、面白いだろ?」
駄目だ…絶対に、またやられる…
楓が、バカ正直に泣き出すから…
「うん…誰の事を言ったのか、すぐ分かったよ。水無月先輩って、分かりやすいんだね…」
「クラスメイト様…それは、あんまりですよぅ……グスッ…」
まだ、泣いているのか…
はぁ…これだから、女性は苦手だ…
「……ずっと、気になっていたんだが…その『クラスメイト様』って、まさか桐生の事か?」
まさかも何も…今この場に朔也様のクラスメイトは、この方しかいないのでは…
「出来れば、桐生でお願いします…」