《中学1年生編》
大和の才能を潰すような判断を、ご隠居様が下す訳がない。
そう考えれば、口走ってしまった事は間違いじゃなかった。
「朔也は、承知しておるのか?」
「……はい。何より俺自身が、高木の大会に出た姿を見たいと思い…その事は既に、本人へ伝えております」
朔也様のお言葉に、ご隠居様は頷いて僕達の方へ向き直った。
どうしよう…
物凄く、緊張してる…
裁判の判決を待つ犯罪者って、こんな気持ちなのかもしれない…
「ならば、何も言う事はない。存分に、励め」
「ありがとうございます。ご期待に沿えるよう、誠心誠意努めて参ります」
よ…よかった…
これで駄目だと言われたら、立ち直れないところだった…
「ご隠居様、本当によろしいのですか?指導するのは、うちの愚息という事になるのですよ?」
……ちょい待ち…
まさかの、実父が敵になるパターン?
「折角、許可もらえたのに…そういう事言っちゃ駄目でしょ!?何、考えてんのさ!?」
「ふむ…」
ほらぁ…ご隠居様が、考え込んでしまったじゃないかぁ!!
「……お祖父様、その事については問題ないかと…空手の指導において、クリアは真摯に取り組むと…高木から、聞き及んでおりますから…」
朔也様が、僕の味方を…!
「そうか…朔也、お主のその言葉を信じよう。神野殿…心配する気持ちは、よく分かる。だが…クリアは、全国大会3連覇を成し遂げる程の腕前…お主の息子の指導力、大いに期待する」
納得してもらえる実力があって、本当によかった…
高校時代の自分を、褒めてやりたい…
「勿体なきお言葉、ありがとうございます」
全く…アンタのせいで、一時はどうなる事かと…
まあ、とにかく…これで、何の気兼ねもなく指導が出来る。
「この話は、これで終わりにしよう。皆の者、席につけ。料理が、冷めぬ内にな」
はぁ…やっと、食事にありつけるよ…
とても美味そうな料理が、テーブルに並べられている。
「いっただきま~す♪」
「本当にお前は、礼儀というものを知らんな…」
腹減った状態で、礼儀とか考えたくない…
「構わぬ。今夜は、無礼講だ」
やったね♪
うん、最高♪
「……お祖父様…クリアに、酒は飲ませないで下さいね…」
う…痛いところを、的確に突いてくるなぁ…
「分かっておる…しかし、ビール1杯であれ程に酔うとはな…」
「すいません!すいません!あんな過ちは、2度とやらかしませんから!」