《幼少編》
【朔也side】
おフロ上がりに、中にわに行けるハナレ(離れ)のロウカで立ちどまる。
お母さまのボダイジュ(菩提樹)を、大きな赤い月がてらしていた。
「朔也様…?気温が高いとはいえ、ぬれたままではおカゼをめしてしまいます」
コトバといっしょに、頭にかけられたまっ白なタオル…
やまとお兄ちゃんの手が、やさしくかみをふいてくれる。
「月が…赤い…」
ボクのヒトリゴトに、やまとお兄ちゃんの手がとまった。
うしろにいるからお顔が見えないけど、やまとお兄ちゃんもきっとあの赤い月を見てる。
血のように、赤い月…
こわくなって、やまとお兄ちゃんにだきついた。
「朔也様…!?どうされました?」
「……なんでもない」
そう言ってはなれようとしないボクを、やまとお兄ちゃんはどう思っていたのかな…
「父上…」
そう言ったやまとお兄ちゃんが見てる方に、高木家の当主と水無月家の当主がいた。
高木家の当主はやまとお兄ちゃんの父おやで、ボクのきょういくがかり(教育係)…
水無月家の当主は、かれい(家令)※…かれいってなんだろ…?
(※使用人の最高責任者)
その2人が、だきついたままのボクを見てすこしわらった。
「朔也様、大和が困っております。離してやっては、頂けませんか?」
やまとお兄ちゃんが…
「……こまってるの?」
「少し…」
そのへんじを聞いて、手をはなした。
こまらせるつもりじゃなかったのに…
「……ッ!?」
下をむいたボクの頭に、やわらかなタオルがふってきた。
「だきつかれたままでは、髪をふけませんから」
か、かみくらい…
「……自分でふけるもん!」
しゃがんでにげる。
「あのようなふき方をすれば、また髪がからまるでしょう?」
女の子でもないのに、そんなこと気にしてどうするの…
「朔也様…大和…じゃれてないで、早く寝なさい。良い子は、寝る時間ですよ?」
かまってくれることがうれしくて、いつもワガママを言ってしまう。
「……ボク、いい子じゃないもん…」
「おや…それは困りましたねぇ…では悪い子の朔也様は、どうすれば寝て下さるのでしょうか?」
そう言ってるあいだにも、ボクをだっこしておへやにむかう。
「おはなしして。それか、本よんで」
「御意」
おとなたちには、シゴトがあるのはしってる。
でも、行かせたくなかったんだ。
どうして、こんなに不安になるの…?