《中学1年生編》
クリアの手が、俺の髪を撫でた。
「朔也様は…ご学友と話す為に、大和に空手部への入部を勧めたんですか?」
……ッ…!?
そんな訳…!
「あ…有り得ない!俺は…」
俺は、何を言おうとしている?
どんな言い訳をしても、結果はそういう事になるのではないのか?
「……や……ま!朔也様!……すみません。少し、意地悪を言いました」
……意地悪…?
そういえば…この男は昔から、人の心を見透かす事が得意だった…
「……俺は、そんなつもりじゃ…」
「分かってますよ。朔也様が、ただ純粋に大和を応援したいと思っている事は…今回は…大和の空手部への勧誘と、朔也様の《思春期》の時期が偶然重なっただけです」
《思春期》…?
その言葉を聞いた事くらいは、何度かあるけれど…
「……水無月は、俺が《成長期》だと言っていたが…」
「ええ、間違ってませんよ。朔也様は《成長期》であり、《思春期》でもあるんです……混乱させました?」
分かっているのなら、一々聞かないで説明して欲しい…
「……その2つは、何が違うんだ?……ッ…!」
一瞬、強い風が俺達の間を通り抜けた。
乱れた髪を、クリアが直してくれる。
「少し、風が強くなってきましたね。戻る道すがら、お話ししますよ」
促されるまま、東屋を出る。
靴を脱いで廊下に上がると、風が一段と強くなって菩提樹の枝を揺らしていた。
道すがら話すと言ったくせに、クリアは何も言わない。
「……《成長期》と、《思春期》の違いは?」
クリアが後ろを歩いているから、表情を見ようとすれば自然と後ろを見る形になる。
「危ないですよ。ちゃんと、前を向いて歩いて下さい」
……話しにくいな…
それでなくても…この男は俺が知りたがっている事を分かっていて、わざと勿体振っているんだ…
根っからの、意地悪だ。
「……前を向くから、話してくれ」
「クスッ…どちらも《心身共に成長し、大人になろうとする時期》です」
……?
同じ…という事か…?
ならばなぜ、言い方が違うんだ?
「……分からない」
「《思春期》には、もう1つ…《心身の成長に感情が追い付かず、精神的に不安定になる時期》というのが加わるんですよ。朔也様のように何でも1人でやりたいと思う自立心と、構われる事への反抗心がごちゃ混ぜになっている精神状態が…正に、《思春期》の特徴なんです」
クリアが言い終わったと同時に、お祖父様達が待つ部屋に行き着いた。




