《中学1年生編》
「ん?遊びたいって?」
違うのか…
「……ならば、喋ったりする方か…?」
これも違うと言われたら、どうしようかな…
「うん…間違いではないよ?間違いではないけど、それ…どこからの情報?」
「……国語辞典から。5限目に、調べてみた」
素直に答えたのに、桐生はなぜか不思議そうな顔をした。
《友達》という言葉を、辞書で調べた事がやはり変だったのだろうか…
「国語辞典って…さっきの時間、英語の授業だったはずなんだけど?」
「最初は、英和辞典を捲っていたんだが…途中で思い付いて、《友達》という単語を調べてみた。全員が辞書を開いていたし、調べるなら今しかないと思って………どうした?」
桐生は、笑いを堪えていた。
「…ふッ……ご、ごめん。英語の授業中に、国語辞典で調べ物する人…初めて見た」
特別面白い話をした覚えはないが、俺との話で笑ってくれた事が嬉しい。
『嬉しい』…?
今まで誰かと話してて、こんな感情を抱いた事はない。
「……こういう事か…」
「こういう事って?」
桐生に問われて、自分の考えを口に出していた事に気付いた。
「いや…桐生が言っていた『一緒にいて楽しい』というのは、こういう事かと思ったんだ。今まで、俺と対等に接してくれる人間がいなかった。身近にいる人間ですら、高木や水無月といった者達だけだから…」
ずっと一緒にいたあの2人とさえ、対等に話した事など全くない。
「先輩達とは、いつもどんな話をしてるの?」
どんな話を……
「基本は、連絡事項。後は…俺がして欲しい事を命令して、あの2人が実行する……大抵、そんな感じだ」
……自分で言ってて思ったが、これは話をしてると言えるのか…?
対等かどうか以前に、まともな会話すら交わせていないではないか…
「そっか…先輩達は、従者なんだもんね…対等な会話って、難しいよね…」
普通に、話せている…
こちらから命令する訳でもなく、相手から敬語が返ってくる訳でもない。
普通の会話がこんなにも嬉しいものだとは、今の今まで知らなかった。
これが、《友達》…?
ーーキーンコーンカーンコーン……
チャイムが鳴る中、教室に戻る為に階段を降りる。
「……桐生、また話せるか…?」
「もちろん!さっきの場所、屋上に鍵が掛かってるから…普段、誰も来ないんだよ。また、あそこで話そうね」
1983年4月28日…
この日、俺に産まれて初めての友達が出来た。