《中学1年生編》
朔也様のお言葉に…いや、その表情に僕達は驚きを隠せなかった。
「……え?美空君!?どうしたの?どこか、痛いの?」
桐生君の慌てた声に、僕と大和は我に返った。
改めて、朔也様の表情を確認する。
何があっても無表情を貫いてきた朔也様が、僕達の前で涙を見せていた。
その事態に驚かない者は、今この場にはいなかった。
それ程までに、朔也様が無表情すぎたのだ。
涙を流されている朔也様の表情は、年相応の13歳の少年に見える。
「朔也様、僕達は外でお待ちしております。終わり次第、お声かけ下さいませ」
「…………すまない…」
助手席にいる大和に降りるように指示を出して、僕自身も運転席のドアを開けて外に出た。
ーーガチャ……バタン…
車から少し離れて、ガードレールに腰かけた。
「ふぅ…まさか、こんな所で朔也様の涙を見るとはね…」
「桐生様が来られる事をとても楽しみにされていた分、ご隠居様に邪魔されたのが相当なショックだったのでしょうね」
……………ふーん、《楽しみ》にねぇ…
でも…その《楽しみ》にしていた時間を奪ったのは、ご隠居様ではなく僕なんだけどね…
「もっと、僕を責めていいのに…」
実際に、桐生君をご隠居様と引き合わせたのは僕なんだから。
「朔也様は、脅されていた人間を責めるような心の狭い御方ではありませんよ」
「その寛大な心を利用したんだよ…僕は…」
朔也様が僕を信じてくれていれば、何をしても許される…なんて、※傲おごりがあったのは事実。
※【傲おごり】地位・権力・財産・才能等を誇って、思い上がった振る舞いをする事。
「その事に関しては、朔也様がお許しになられても私は絶対に許しません。貴方様の一生をかけて、償って頂きます」
一生…って事は、つまり…
「この命が続く限りは、朔也様の御傍おそばにいてもいいって事?本当にいいの?そんな、寛大な※措置そちで…」
※【措置そち】事態に応じて必要な手続きをとる事。取り計らって始末をつける事。処置。
元より、もう二度と朔也様から離れる事は有り得ない。
「貴方様は性格に難有れど、今まで鍛えて来られた頭脳と体力や馬鹿力は手放すには惜しいと判断したまでです。これからは私が、その力を有益に使って差し上げますよ」
僕…一応、お前の武術の師匠なんだけどな…
腹黒いお前にだけは、性格の事を言われたくなかったよ…
「従者としては、お前の方が先輩だし…おとなしく判決を受け入れるよ。これからが、楽しみだ」