《中学1年生編》
【クリアside】
朔也様と桐生君が部屋へ入室されたのを見届けた後、僕は大和を連れて道場へと足を向ける。
無言のまま歩く道すがら部屋周辺の人払いをして、道場に着くまでに通常の3倍の時間を要した。
道場の扉を開けると、夏特有の蒸し暑さが全身に纏わり付く。
「用件は、手短にお願いします」
大和の丁寧な口調の裏側に、苛立ちが見え隠れしている。
「話が短くなるか長くなるかは、お前次第なんだけどね」
茶化すような僕の言葉で、大和の眉間の皺が深くなった。
これでいい…コイツの場合、正攻法で行っても、本音を話す事はない。
本音を聞き出す為には、怒りで正常な判断が出来なくさせればいい。
「何故、私『次第』なのですか?」
「分からないの?本当は、自覚してるよね?自覚なしで、あんな風に他人を睨み付けられる訳ないもんねぇ」
わざとゆっくりとした口調で問い質したら、ばつが悪そうに視線を逸らして俯いた。
今更やった事を悔やんでも、僕がその場にいた以上見て見ぬふりは出来ない。
「自覚は、してます。ですが…間違った事をしたとは、思っておりません」
開き直った大和に対して、思わず溢れそうになった溜め息を何とか飲み込んだ。
「思ってなくても、やり方を間違ってるんだよ。朔也様を心配するあまり、自分でも気付かない内に行動が過激になってきてる。このままじゃ、いつか大切な朔也様の心を傷付けてしまう結果になる」
驚きで目を見開いた大和は、全身の力が抜けたようにその場にへたり込んだ。
ショックを受けるとは分かっていたけど、さすがにちょっと可哀想になってきた…
「……………私は、朔也様の御為に…」
「…………ッ……」
聞こえるか聞こえないかの小声で呟かれた独り言に何かを言おうとした僕は、涙を流す大和を目の当たりにして口を閉じた。
何も言わずに大和の隣に座り、その頭を泣き止むまで撫で続けていた。
「………クリア様…私は、どうすればよかったのですか?」
『どうすれば』…?いや…どうするも何も…
「大切に思うんだったら、朔也様が選ばれた《友達》も大切にしてあげないとね。桐生君を信じて、任せてみようよ。2人ではどうしようもなくなったら、僕達が手を差し伸べればいいんだよ」
「………はい」
返事をして頬に流れた涙を手で拭おうとする大和にハンカチを手渡し、もう一度だけ頭を撫でて僕は道場を後にした。