《中学1年生編》
「………………」
そこで黙ってまじまじと見られると、何となく恥ずかしいんだけど…
「な、何?俺の顔に、何か付いてる?」
照れ隠しから出た俺の質問に、美空君は俯く事で視線を逸らしながら答えた。
「……いや、別に…何も、付いてはいない。すまなかった。もう、見ない」
こ、この子って…どうして、こう…極端から極端に、思考が飛んでっちゃうのかなぁ…
何か言わなきゃいけないんだろうけど、この状況でどうしたら…
「桐生君、大丈夫だよ。僕に、任せておいて」
こんな困った状況に、助け船を出してくれたのはクリアさんだった。
ゆっくり俺達に近付いてきたクリアさんは、椅子に座ってる美空君の足元に跪く。
「……クリア、どういう事だ?」
「それはですね…桐生君は、見るなとは言ってないって事ですよ」
尚も不思議そうな表情をしてる美空君に対して苦笑いを返したクリアさんは、右手でそっと美空君の髪を撫でた。
まるで幼い子供を宥めるかのような光景は、普段大人びてる美空君が年相応に見える瞬間だった。
髪を撫でられても嫌がらないのは、クリアさんへの信頼の証なんだろうな…
「……見てもいいのか?」
「いいですよ。でもね、何も言わずジロジロ見るのは駄目です。その相手に、威圧感を与えてしまいますからね」
クリアさんって、やっぱり凄いよなぁ…ただ否定するんじゃなくて、優しく諭してあげられるなんてさ…
俺なんかじゃ到底真似出来る事じゃないけど、何かがあった時に安心させてあげられるようになりたい。
「……分かった。桐生、菩提樹の花を見に行こう」
「えぇ…!?う、うん…」
美空君が急に俺の右腕を引っ張るから、びっくりして声が裏返った。
引っ張られるままに歩きながらクリアさんの方を見ると、優しく微笑みながら右手を振ってくれた。
「行ってらっしゃい」
その言葉に会釈を返して、美空君の方に向き直った。
正直に言って、美空君の行動がよく分からなかった。
今までいた東屋から菩提樹まで、そんなに離れている訳でもない。
花を見る為だったら、東屋からでも綺麗に見えるはずなのに…
「……クリアはあのように言っていたが、お前自身はどう思っている?」
俺の右腕を掴んだままの美空君の左手が、わずかに震えている。
「どうって…クリアさんが、言ってた通りだよ。長い時間、何も言わないで見詰められると緊張してしまう」