《中学1年生編》
【桐生side】
ーー30分後・東屋…
「……はぁ…いい加減にしろ。俺は、もう大丈夫だと言っている」
東屋に置かれている椅子に腰掛けた美空君が、診察をしているクリアさんへ溜め息交じりに声をかけた。
ここに『お姫様抱っこ』で運ばれてきた上に、ずっと診察を受けてたら溜め息も吐きたくなるよね…
「クリア様、そろそろ解放して差し上げて下さいませんか?このままでは、朔也様のお心が休まる暇がございません」
この現状を見かねた水無月先輩からの助け船を受けて、美空君は椅子の背凭れに体を預けて深く息を吐いた。
「これは、大変失礼を致しました。……じゃあ、大和。ついでに診察するから、ここに座って」
謝って美空君から離れたクリアさんは、次に高木先輩を呼んで東屋に備え付けのベンチに座らせる。
その様子を見ていると、不意に服の裾を引っ張られる感覚がした。
視線を向けたら、俺を見上げている美空君と目が合う。
「どうしたの?」
「……桐生、お前には本当に申し訳ない事をした。折角、泊まりに来てくれたというのに…こんな家で…お前は、相当呆れているのだろうな……すまなかった…」
真っ直ぐに俺を見据えて真摯な態度で謝ってくれる美空君に、呆れる所か嬉しさを感じている自分がいた。
短い間に色々な事が起こって、戸惑いや不安があったのは紛れもない事実で…
それでも、だからって美空君と友達になるのを諦めようとは思わない。
「謝らないでよ。美空君は、何も悪い事してないのに…俺はね、この家に来れてよかったと思ってるよ」
「……『よかった』?なぜ、そう思う?」
怪訝そうな表情をした美空君が、すぐに聞き返してきた。
その場にいる全員の視線が俺に集中して、次の言葉を待ってる。
「あ…えっと…何て言えば、いいのかな…実際にこの家に来れて、美空君の置かれてる環境を身をもって感じれたっていうか…それだけでも、よかったなって…」
上手く言えてるか分かんないけど、誤魔化しや冗談じゃなく正直な気持ちをそのまま伝えた。
話に聞いただけじゃあまりにも現実味が無さすぎて、こんな家庭環境だなんて想像もつかなかった。
「……俺は、縁を切られる覚悟をしていたんだが…」
ぽつりと呟かれた美空君の言葉に、首を横に振って答えた。
「そんな事、絶対にしないよ。これしきの事で諦めるくらいなら、最初から友達になってないもん。だから、気にしないで」