《中学1年生編》
「あの馬鹿息子が、どれだけ私に反目していようと関係ない。どう足掻こうと、最終的には私の思い通りになるのだからな」
余裕を見せているらしいが、先程こぼした言葉がお祖父様の焦りを鮮明に物語っていた。
『早くせねば、隆臣の奴が…』という事は、近い内に《あの人》が…いや、お父様が動き出すのか?
「だから、それが『時代遅れ』だと言っているんです!長が権限の全てを握ってた時代なんて、とっくに終わってますよ!」
苛つきを隠さないクリアの怒号に、不謹慎ながら嬉しさを感じていた。
口下手な俺に代わって、お祖父様に俺の気持ちを伝えてくれている。
だけど…いつまでも、これでは駄目なんだ…
誰かに守られて、誰かに何かをやらせて…自分がやっている事は、お祖父様達とどう違う?
お祖父様が余裕の表情を崩さないのは、俺が1人では何も出来ない子供だと思っているからだ。
「終わってなどおらん。少なくとも、この家の中ではな」
「美空家の歴代《当主》がそんな考えだから、周囲から『古いしきたりに囚われている、憐れな時代錯誤の旧家』だと揶揄されるんですよ!!……あ…」
怒りに任せて言葉を紡いでいたせいなのか、クリアは言い終わった後に慌てて口をつぐんだ。
そうか…我が家は、周囲からそんな風に思われていたのか…
「ほう…その話、詳しく聞かせてもらおうかのう。『周囲』とはどこまでの範囲を指すのか、どこの誰が言っていたのか…」
先程まで中庭の方に体の正面を向けて視線だけでこちらを見ていたくせに、クリアの言葉で完全に俺達の方へ向き直した。
「おや…さすがのご隠居様も、体裁を気にされるんですね。それが分かっただけでも、今日は大収穫になりましたよ」
いつから目的が、お祖父様の弱点発掘になったんだ…
「……お祖父様、今更気にされても意味がありません。この家系の支配力がなければ、誰も従わないのは分かりきっている事でしょう」
その家で産まれた者でさえ疎ましく思うのに、支配されている者達がそう思わない訳がない。
「朔也よ…何かを、勘違いしておらぬか?体裁など、私にはどうでもよい。ただ、不満分子は早目に潰しておかねばならぬのだ。よもや、忘れてはおるまいな?約8年前に起きた、あの忌まわしい《事件》を…その引き金を引いたのは、お主の父親であり私の馬鹿息子だった事を…だからこそ、『揶揄』されている内に対処しておかねばならんのだ」