《中学1年生編》
「お主、先程と言っておる事が違うではないか。 そちらの戦力たった2人で、どう太刀打ちすると言うのじゃ?この人数に…」
ご隠居様の言葉に応じて、襖が音も無く開かれた。
その向こうにいたのは、どれも屈強な男達…軽く見積もっても、30人はいる。
「……勘違いを、なさらないで下さい。誰が、今この場所で闘わせると言いましたか?それにしても……よくも、まぁ…無駄に鍛え上げた連中を、これ程かき集められましたね」
立ち上がられた朔也様が、非常にゆっくりとした動作でその《連中》の方へ歩いていく。
遅れて私と楓も、朔也様の後を追いかけた。
クリア様の隣を通り過ぎようとされた時、朔也様の左手首をクリア様が掴まれた。
「朔也様、お待ち下さい。はぁ…大和達が異論を唱えられないのをいい事に、また無茶をなさって…こちらに、お座り下さい」
そう言って立ち上がり、掴んだままの朔也様の腕を引き自分が座っていた場所に座らせた。
「……襖を、閉めようとしただけなのに…」
どこか面白く無さそうな朔也様の髪の毛を、クリア様がそっと撫でる。
「何も、ご自分でなさらなくても…そういう事は、僕か大和に命令して下さいよ」
『命令して』とか言いながらも、目線は私に行けと仰られている。
今度はこちらがつきそうになった溜め息を、何とか堪えて開かれた襖の方へ視線を向ける。
すると、困惑している30人近くの視線が一気に私へと向けられた。
まぁ…襖を開けた時点で闘う気満々だったんだろうし、その気持ちの持って行きようが分からないのも無理はない。
極力目を合わせないようにして、襖を閉めた。
「……お祖父様、あの者達を解散させて下さい。この場は、食事をする場所…俺が言った『手合わせ』とは、ルールに基づいてやる事です」
それは、つまり競技として勝負しろと…?
先程から微動だにせず言葉を発しなかったご隠居様が、立ち上がり外廊下へ歩き出された。
敷居を跨ぐ寸前で立ち止まり、振り返らず命令を下される。
「ここは、もうよい。次の指示を下すまで、本来の仕事に戻れ」
その命令に従い、大人数の足音が遠ざかって行った。
念の為に襖を開けて、誰もいなくなったのを確認する。
「……これは…俺の申し出を受け入れて頂けたと、考えてよろしいのでしょうか?」
「思い上がるでないわ!!私の気も知らずに、何が『ルールに基づいて』じゃ!早くせねば、隆臣の奴が…」