《中学1年生編》
目にも明らかな程顔色を変えた私に、クリア様が問いかけてきた。
「大和…?どういう事だ?」
「当時はまだ、父上がご存命だったのです。私は、《教育係》の任には就いてはいなかった…」
ご隠居様が私を『咎めない』と仰られたのは、私が《教育係》であり《使用人》の子供に過ぎなかったから…
「そういう事じゃ。いくら私と言えども、《使用人》ですらない者を咎められぬからのう。だが、今の高木は父親の跡を継いでおる」
もしや、今更になって責任を問われるというのか?
いや、まさかな…ご隠居様程の御方ともなれば、一度不問にした事を覆したりは出来ないだろう。
そのような事すれば、ご自分の立場が危うくなるのは目に見えている。
「ご隠居様、その論理は通用しませんよ?大和の家系は、先祖代々から美空家にお仕えする《使用人》。高木家の長男として産まれた以上、跡を継いでいようとなかろうと《使用人》である事に変わりはないはず…」
言われてみれば、確かにクリア様の仰られた通りだ。
私の家系から長男として産まれて、美空家にお仕えしなかったという前例はない。
「若造が、何を言いたいのじゃ。発言には、気を付けるがいい。お主が私の機嫌を損ねれば、迷惑を被るのは親父殿である事を忘れるでないぞ?」
人はなぜ、思い通りにならなければ脅そうとするのか…
最早何度目になるか分からないご隠居様の脅迫を、クリア様は涼しい表情で受け流していた。
「僕は《使用人》ではありませんので、多少の失礼は大目に見て頂けませんかね?ご隠居様もこんな『若造』ごときの発言1つで、親父の病院に何かすれば威厳丸潰れですよ?」
脅迫に対して脅迫で返すなんて、本当に何を考えているんだ…この人は…
「……お祖父様、もう止めませんか?このような事は、はっきり申し上げて時代遅れです。俺は家督と共に、この家の因習まで受け継ぐつもりはありません。これ以上、続けるなら…」
一旦お言葉を区切った朔也様が、襖へ視線を巡らせられた。
そしてゆっくりと振り返り、クリア様と私を見られた事で《合図》だと判断した。
「朔也、何を企んでおる!」
「……企んでおられたのは、お祖父様でしょう?閉め切った襖の向こうで待機させて無駄に体力を使わせるより、手っ取り早くこちらの2人と手合わせをさせませんか?」
ーーガタッ…ガタンッ…!ざわざわ…!!
襖の向こうが、一気に騒がしくなっていく。