《中学1年生編》
重苦しく感じる空気が、全身にのしかかってくるようにすら思える。
『はっきりと言え』って言われたからって、あんまりにもはっきり言えちゃったクリアさんが凄すぎる…
「信用は、しておるぞ。だが…いずれは、この家の家督を継ぐ者…どこへ出しても恥ずかしくないよう、今の内から躾ておかなければならぬのじゃよ」
躾で、孫の友人関係に口出しするの?
言い訳するにしても、もうちょっと別の言葉なかったのかな…
静まり返った部屋の中で、何分が経っただろうか…
いや…長く感じるだけで、数秒も経ってないかもしれない。
暑さのせいなのか緊張のせいなのか、一筋の汗がこめかみを伝っていく。
そんな沈黙を打ち消したのは、お爺さんの隣に座っている美空君だった。
「……お祖父様、お気遣いありがとうございます。その事で…少しの間、俺と話をして頂けないでしょうか?」
そう言いながら美空君は、立ち上がって移動を開始する。
どこへ行くのかと思っていると、斜向かいに座っているクリアさんに何か耳打ちして…
今度は、クリアさんが美空君の元いた場所に移動した。
状況的には、さっきまでテーブルを挟んでお爺さんとクリアさんが向かい合ってたけど…今は、お爺さんと美空君が向かい合ってる。
それで…こっちも、さっきまで美空君と向かい合ってたけど…今は、クリアさんと向かい合ってる。
わざわざ座り直してまで、改まって何を話すつもりなの?
「お主は、先程から何をやっとるのじゃ。話をするのでは、なかったのか?」
「……しますよ。ただ…隣にいては、お祖父様の表情がよく見えないものですから…」
美空君が移動してる時に多少和らいだ空気が、また重くなって全身にまとわりついてきた。
「桐生君、すごく汗かいてるね…楓ちゃん、手拭い濡らして持ってきて。あ、それと団扇もね」
「かしこまりました」
大丈夫と言おうとしたのに、言えなかった。
おかしいな…俺、持病なんてなかったはずなのに…
「先程から、何じゃ…話が、全く進まんではないか」
お爺さんからの文句に、全然悪くないクリアさんが謝ってくれた。
「申し訳ございません。診たところ、緊張による一時的な体温上昇。それに伴う発汗作用が、原因と思われます。病の類いでは一切ございませんので、どうかご安心下さいませ」
迷惑かけないように頑張ろうって決めたのに、結局クリアさんの迷惑になってる…