《中学1年生編》
「私には言ってなくとも、孫や桐生殿には言っておるのではないのか?私が、何も知らぬと思うなよ?」
た、確かに…俺は、クリアさんに『味方だ』と言われた事がある…
だけど、何でお爺さんがそれを知ってんの!?
「不思議な事じゃないよ。この屋敷には、至る所にご隠居様の配下の者達がいる。交わされた会話の全てが、ご隠居様の耳に入るんだ」
驚きを隠し切れなかった俺を見たクリアさんから、更に驚く情報が与えられた。
『交わされた会話の全て』って…それって、思いっきりプライバシーの侵害なんじゃ…
「……桐生、お前の言いたい事は分かる。だが、ここは治外法権。この国の常識は、通用しないと思ってくれ」
どこぞの大使館か…
いや、そんな事より…どこの国の常識でまかり通ってんだ、この屋敷は!!
……というか、さっきから俺一言も喋ってないのに…クリアさんも美空君も、何で俺が考えてる事分かるの?
そんなに、表情に出てる?
思わず、顔を触って確かめてしまう…
それを見たお爺さんが、軽く笑って俺に話しかけてきた。
「お主、なかなか一筋縄では行かぬ男じゃの。脅せば簡単に引き下がるように見えて、実際は意外な方向からの反撃を狙っておる」
いや…別に、『狙って』はいないんですけどね…
本人の予想もしない所で、勝手に評価が上がってる…
「一筋縄で行かないのは、お爺さんの方ですよ。何の為に、《試練》なんてやって人を試すんですか?」
昨日の夜の《試練》は、何とか切り抜けられたけど…あれがまだ第2段階で、更に最終段階が待ち受けているらしい…
「簡単な事。お主が、朔也の友人として相応しいか見極める為じゃ。第3段階に進むのは、お主が初めてじゃな。喜んでよいぞ」
この人、今まで美空君に近付く人達を何人蹴落としてきたんだ…
「お言葉を返すようですが、ご隠居様…こんな事、もう止めませんか?」
クリアさんが、とうとう勝負を仕掛けた。
「どういう意味かの?はっきりと、申してみよ」
本当はちゃんと分かってるくせに、とぼけて全部言わせるなんて…
その部屋にいるお爺さん以外の全員が、固唾を飲んでクリアさんの言動を見守る。
「では、言わせて頂きます。孫の友人関係に祖父が口を出すなど、時代遅れなんですよ。これはあなたに限らず、御前様にも言える事なんですがね…少しは、ご自分の孫を信用されてはいかがですか?」
本当に、はっきり言っちゃった…