《中学1年生編》
孫である美空君に追及されても、お爺さんは慌てる様子もなく湯飲みに入ったお茶を啜った。
俺の隣に座っているクリアさんが、その様子を見て立ち上がった。
怒りの表情で、テーブルを挟んで向かいに座るお爺さんを睨み付ける。
「どうした?年寄りを相手に、大立ち回りでもやらかす気かな?」
挑発してくるお爺さんに対して、クリアさんは拳を握り締めたまま動けずにいる。
気持ちは、よく分かる…でも、暴力は…
俺がそんな心配しなくても、大丈夫だとは思うけど…
「……クリア、お祖父様の安い挑発に乗るな。こちらから何かすれば、それこそお祖父様の※思う壺だ」
《※思う壺:壺とは、賭博でサイコロを入れて振る道具。意味は、意図した状態…または、企んだ通りになる事》
美空君の言葉で、クリアさんの身体から力が抜けたのが俺にも分かった。
ゆっくりと座り直したクリアさんに向けて、お爺さんはまた挑発を続けてきた。
「昔より、随分と利口になったものじゃな。怒りに任せて暴れておれば、こちらとしても正当防衛としての大義名分が出来たんじゃがの…朔也よ、如何にしてこの《狂犬》を手懐けたのじゃ?」
クリアさんのどこが、《狂犬》なんだよ!
……言いたい…けど、言えない。
そんな事したら、折角我慢したクリアさんの行動に水を差してしまう。
何より、お爺さんは美空君に問いかけたんだ。
俺がこういう場面で、口を挟んじゃいけない。
「……手懐けてなど、おりません。俺が、クリアを必要とし…クリアが、それに応じてくれただけです」
「ほう…『必要』とな…」
何で、こんなに人の揚げ足ばかり取りに来るんだろう…
あ~、もう!イライラする!!
美空君はどうして、そんなに涼しい顔していられるの!?
いや…元々、感情が面に出ない子だけど…
「ご隠居様、何が気に食わないのですか?この僕が…お孫様のお傍にいては、いけませんか?」
「そのような事は、一言も言っとらん。じゃがの…お主は味方のフリをして近付き、裏切るという所業を平然とやってのけるからのぅ…それで信用しろと言われても、無理な話じゃないかの?」
テーブルを挟んで向かい合っているクリアさんとお爺さんの間に、火花が散っているように見える…
ああ言えばこう返してくるお爺さんを、どうやったら打ち負かせるの?
「僕は…ご隠居様に『味方です』なんて、言った覚えありませんよ」