《中学1年生編》
ーーーーーーー……………
ーー1時間後…
ーー1983年7月17日(日曜日)・午前8時00分…
屋敷の外廊下を歩きながら、先程クリアが話してくれた話の内容を思い返す。
『手駒を潰す』…それはつまり、また誰かの血が流れるという事なのだろう…
主の命令1つで、己の命さえも投げ打つ使用人達…
どこまでも忠実に、そして確実に任務をこなす事だけを求められる。
意思を持つ事すら、許されていない。
何よりも相手は、あのお祖父様だ。
連れている使用人達は、古参の腹心…
それが何人いるかも、把握出来ていない状況なのだ。
加えて…こちらでまともに闘えるのは、クリアと高木の2名だけ…
闘ったところで、結果は火を見るより明らか…
今のままでは、到底敵わない。
現段階でもそのような状態なのに、クリアは1人でどうするつもりだったのか…
ふと、足を止めて振り返る。
「朔也様…?どうか、されましたか?」
水無月が俺と視線を合わす為に、身を屈めながら問いかけてきた。
「……お前達に、命令を下す」
俺の言った『お前達』とは、高木と水無月の2名に対しての発言だったのだけど…
言葉を受けて片膝を立てた2人に倣って、クリアも同じ姿勢をとった。
「クリア様、何をなさっているのです?あなた様は、関係ないでしょう?」
高木の言う通り、これは従者に義務付けられている事でクリアには関係のない事だ。
「関係は…あるよ。僕は、いずれ朔也様の主治医となる身…主治医とは、読んで字の如く《主を治す医者》…だから、僕の主は朔也様なんだ。その御方から命令が下る時に、立ったままなのはおかしいだろ?」
筋が通っているのか、いないのか…何だか、よく分からない理屈をこねられてしまった…
冗談にしても本気の言葉にしても、今はそれを追及する時間が惜しい。
お祖父様との朝食の時間が、迫っている。
「……分かった。今は、それでいい。命令は…《俺が許可するまで、絶対に動くな》。例え、何があってもだ」
力技に出るのは、あくまでも最終手段だ。
回避出来るのであれば、誰も傷付かずに済む。
暴力では、何も解決しない。
「しかし…!それでは…ッ!」
言葉を返そうとする高木を、睨み付ける事で黙らせた。
「……これは、《命令》だ。反論は、認めない。返事は…?」
求める返事は、ただ1つ…
「「「御意」」」