《中学1年生編》
クリア様の肩が、微かに震え出した。
「クリア様…?どうか、されましたか?」
返ってきたのは、私の問いかけに対する返事ではなかった。
「は…はは、あはははは……あの親父、何やってんの…?普段、悪口ばっかり言ってくるのに…何で…どうして……こんな事、してんだよ…」
言葉では憎まれ口を叩きながらも、その表情は優しく微笑んでいる。
読まれていたお手紙を丁寧な動作で封筒に戻し、自分の目の前にいる楓に渡した。
手紙を受け取った楓が、クリア様へ一礼を返す。
「先程とは、表情が変わりましたね。今のあなた様の気持ちを、お聞かせ願えますか?」
これでもまだ『自分が犠牲になる』と言うのなら、刺し違えてでも止めてみせる。
自然と、右手の拳に力が入る。
「人に散々、分かりやすいだの何だの言っといて…大和、お前も大概分かりやすいよ。手の力を抜け。僕は、お前とやり合う気はないからさ…守りたいお方は、一緒のはずだろ?」
そう言いながら、私から視線を外す。
何を見ているのかを確かめるように、クリア様の逸らした視線の先を追っていくと…
「……………朔也様…」
東屋におられるはずの朔也様が、私達の方へと歩いて来られていた。
あの距離では、話を聞かれていた可能性は限りなく低い。
「大和、説得に時間をかけ過ぎたわ…朔也様に、不審に思われても当然よ」
楓の言葉に、自分の腕時計を見る。
説得を始めてから、30分は経っている。
どう言い訳をすれば、この失態を丸く収められるのか…
焦る頭では、考えなど纏まる訳もなく…
「……随分と時間をかけているが、何を話しているんだ?」
朔也様のお言葉に、焦りは募るばかりだった。
すぐに、返事をしなければ…
「ちょっと、どうするの…何とかしてよ」
私の背後に隠れた楓が、小声でそんな事を言う。
なぜ、他人任せ!?
ただでさえ、軽くパニックに陥っているというのに…!
「仕方ないな」
ーートンッ…
右肩に軽い衝撃を受けて隣に顔を向けると、クリア様が私に向かって片目をつむってみせた。
「……クリア…?」
それを見た朔也様が、不思議そうな表情をされている。
「更なる説明が必要になる事態を、引き起こさないで下さい…」
「ごめん、ごめん…朔也様も、申し訳ございません。僕が、この2人に頼み事をしてたんですよ」
な、何を…
この人は今、何と言った…?
私達は『頼み事』など、された覚えは……