《中学1年生編》
【大和side】
クリア様の肩を掴んでいる手を離し、改めて話を聞く意思を伝えた。
目を伏せ、しばらく何かを考えていたが…再び私と視線を合わせた時、その目には迷いはなかった。
「お前達は、このまま何事もなく終わると思うか?」
聞かれるまでもなく、終わる訳などない。
いや、私が終わらせない。
「思いません。こちらの動向は、ご隠居様にとって予測の範囲内でしょう…それともう1つ、気になる事が……」
「第3段階の事ね…私も、気になっていたわ…今度は、どんな無理難題を出されるのかしら?」
第1段階は、桐生様への質疑応答…第2段階では、桐生様の身代わりに楓が囚われ私も負傷した。
ご隠居様の手の者達が桐生様に直接手出し出来なかったのは、護衛としてクリア様が守ってくれたからに他ならない。
「昨日の1件は、ご隠居様からすれば失敗した事になる。その原因を作った者を、ご隠居様は決してお許しにならないだろうね」
『その原因を作った者』とは、クリア様自身ではないか…
自分の事をまるで他人事のように、軽く言ってのけるクリア様に違和感を覚えた。
今までにも何度か感じた感覚がどこから来るのか、どう対処すべきかも熟知している。
「大和…クリア様のあの悪い癖、何とかならないの?」
癖…と言うより、すでに病気と言う方が正しいかもしれない。
クリア様を心配している楓が、不安げに私を見詰めてくる。
それに、頷いて…
「お1人で、自己完結をしないで下さい。大方…あなたが責任をとって、ご隠居様にお許しを請われる腹積もりでしょうが…朔也様が悲しまれると分かっている事を、私達がさせるとお思いですか?」
こちらには何も知らせず、自分が消える事で全てを終わらせようとしている。
あの、忌々しい《事件》の後も…周囲からの謂れのない怒りを一身に受け止め、朔也様と私達の前から勝手にいなくなった。
それと同じ事を、またやるのか…?
「消える事で大切な人が守れるなら、僕は喜んで消えるよ。元々、従者じゃないから…仕事の上では、お前達に何の支障もないだろ?……お願いだから、最後くらい格好つけさせてよ…」
最後…?冗談じゃない!
そんな事をさせたら、もう二度と…
「朔也様の笑顔を、諦めるのですか?」
私の問いに一瞬驚いた顔をして、それを隠すように私達に背を向けた。
「僕がいなくても、朔也様にはお前達がいる。桐生君も、いるから…」