《中学1年生編》
【クリアside】
普通、本人に面と向かって『怯えてる』とか言うもんかね…
「もし、そうだとして…桐生君は、何を知りたいのかな?僕の事なんて、君には関係ない事でしょ?放っといてよ」
君は、自分の事だけ考えてればいいんだよ。
「はい、関係ないです」
……ハッキリ、言うね…
「じゃあ、放っとい……」
「嫌です。自分を犠牲にしようとしてる人を放っとける程、俺は薄情には出来てませんので…」
何、この子…
お人好し通り越して、お節介かよ…
……僕も、人の事言えないけど…
「ご立派なご高説だけどさ、そういうのは朔也様に向けてのみ発揮してくれたらいいよ。僕は、誰にも止められないから…」
一度決めた事を簡単に覆したら、それはもう男じゃないでしょう。
正直に言えば、かなり『怯えてる』。
逃げ出せないように道場で寝泊まりまでして、決意を新たにしたっていうのに…
運命の神様は、どこまで僕を苦しめたら気が済むの?
「止めるつもりは、ありません。何をしようとしてるのかだけ、教えて下さい」
「知って、どうするの?」
君は朔也様の友達であって、僕の友達ではないでしょ?
……駄目だなぁ…卑屈になるなんて、僕らしくない。
これじゃ、昔の僕に逆戻りしてるよ…
「どうもしません。ただ…自己犠牲なんて、今時流行りませんよ」
「き……」
『君に、何が分かるの?』
そう言いかけて、言葉に詰まる。
堂々巡りになるだけだ。
「……?クリアさん、あなたは美空君の笑顔が見たいんじゃなかったんですか?あなたが犠牲になって、美空君が笑うと思いますか?」
眼光鋭く僕を睨み付けてくる桐生君は、的確に僕の弱点を突いてきた。
「…………………」
朔也様の事を持ち出されると、返す言葉も見付からない。
甘い花の匂いがして、僕の脳裏にかつての思い出が蘇る。
ーーーー………
幼い朔也様が、嬉しそうに菩提樹へ駆けて行く。
そして、振り返り…
『クリア、みて!おかあさまのはなが、さいたよ!らいねんも、いっしょにみようね。やくそく』
そう言って差し出された右手の小指を、僕の小指で確かに繋いだのに…
ーーーー………
その約束は、果たせなかった…
卑屈になって、勝手な事ばかりして…僕は、朔也様を裏切ったんだ…
「……クリア」
朔也様!?どうして…
「な、何でしょう?」
思わず、上擦った声が恥ずかしい。
「……もう、9年か…長かったな…」