《中学1年生編》
この人…いつの間に?
いや、そんな事よりも…
「それ、どういう意味ですか?」
全て上手く行かない事なんて、一々言われなくても分かってる。
むくれる俺を無視して、椅子に座ってる美空君に近付いていく。
「おはようございます」
「……おはよう」
挨拶優先なんだ…
そうだよね…どうせ、俺なんか……ッ!?
え…!?……えっと…?
いきなりクリアさんに、頭を撫でられて困惑する。
「何…ですか…?」
撫で方がまるで、犬猫を撫でるような手つきなんだけど…
「へぇ、桐生君って猫ッ毛なんだね。よしよし」
いや…『よしよし』って…
完全に、犬猫扱いじゃないか!
ーーパシッ!!
俺の頭を撫でるクリアさんの右手を払いのけようとしただけなのに、勢いがついてたのか叩いていた。
「あ…ご、ごめんなさい!俺、そんなつもりじゃ…!」
あー…もう!美空君が見てるのに、何やってんの…しっかりしろよ!
「気にしないで。ごめんね」
本当に申し訳なさそうに謝るクリアさんが、どこか寂しげに見えて罪悪感を覚えた。
さっきの事もちゃんと聞きたいし、この人と話さなきゃいけない気がする。
「美空君、ちょっとクリアさんと話がしたいんだ。向こうに行ってもいいかな?」
『向こうに』と言いながら、菩提樹を指差す。
聞かれても困る会話じゃないけど、この人…美空君の前だと、すぐ格好つけるから…
「……構わない。だが、喧嘩はしないでくれよ?」
「朔也様…さすがの僕も、10も年下の子と喧嘩はしませんよ…」
喧嘩しても、俺負けちゃうよ…
先に菩提樹の方へ歩き出したクリアさんの背中を、走って追いかけた。
追い付いて顔を見ると、グレーの瞳は菩提樹の枝に咲き誇る花を見上げていた。
「今、何考えてます?」
悪い人じゃないのは、分かってるけど…
こっちの心ばかり見透かされて悔しいから、余裕面なんて出来なくしてやりたい。
「ん~?綺麗だなぁって……」
「ちゃんと、眠れてます?」
わずかに、クリアさんの目が見開かれた。
「寝てるよ。どうして、そう思うの?」
美空君に出会う前、俺は学校で先輩達にカツアゲされていて…夜は、不安で寝付けなかった。
その頃の鏡に映った自分の目と、同じだと思ったんだ。
「なんとなくです。何かに、怯えてるような気がしたんですよ。違ってたら、ごめんなさい」
謝りながらも、俺の中では奇妙な確信があった。
この人は、怖がってる。