《中学1年生編》
【桐生side】
窓から射し込む光で、目が覚める。
「まぶし……」
日射しに背を向けるように寝返りをうつと、隣の布団で寝ている美空君がいた。
そうだ…俺、泊まりに来てたんだ…
壁にかかってる時計の針は、午前6時10分を指している。
日の出からそんなに経ってないはずなのに、この日射し…
今日も、暑くなりそうだ。
「……ぅ………ン……桐生…?」
隣から声が聞こえて、視線を窓から外して振り返る。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
美空君は瞼を擦りながら、ゆっくりと体を起き上がらせた。
「……いや、眩しくて…窓に、カーテンを付けるべきかな…」
今、それを考えるの!?
昨日も思ったけど…《美空君の部屋》として案内されたここは、どこかの旅館の一室みたいで全くと言っていい程生活感がなかった。
『カーテンを付けるべき』以前に、窓にカーテンレールすら見当たらないんだけど…
「うん、そうだね…」
しょっちゅう部屋換えするみたいだから、ここだけにカーテン付けても意味ないと思う…
喉元まで出かかったその言葉を、何とか飲み込んだ。
「……クーラー…寒くないか?」
あ…道理で夏なのに、暑くないと思った。
「大丈夫、涼しいよ。ねぇ、もしかして…全ての部屋に、クーラー付いてるの?」
まさかとは思いながらも、素朴な疑問をしてみる。
この大きな屋敷中の全ての部屋にクーラーがあったら、1ヶ月の電気代恐ろしい事になりそう…
「……クーラーは…寝る部屋と客室、応接室くらいにしか付いていないが…?」
「だ、だよね。それを聞いて、安心したよ」
この時の俺は、まだ知らなかった。
屋敷内にある『寝る部屋』とは、使用人の人達が寝泊まりする部屋も含むという事を…
その部屋だけでも、30を越える事を…
「……安心?……何だか、よく分からないが…お祖父様との朝食まで、まだ時間がある。俺は東屋へ行くが、どうする?」
美空君は本当に、あの場所が大好きなんだなぁ…
お母さんが遺してくれた場所なんだから、当たり前か。
「一緒に、行ってもいいかな?」
夕方と夜の菩提樹は見たけど、早朝の眩しい光に照らされた菩提樹も見てみたい。
しかも今の時期は花が咲いてるから、きっと想像以上に綺麗なんだろうなぁ…
「……構わないが、花以外…何もないぞ?」
「もう!また、そんな風に言って!その花を見たいから、行くんだよ?準備して!」