《中学1年生編》
ずっと、気になっていた事がある。
「1つだけ…聞いても、よろしいでしょうか?答えたくなければ、無視して頂いて結構です」
確認をするまでもなく、クリア様の性格からして何でも答えてくれるだろう事は分かっていた。
「何で、そんな改まってんだよ…う~ん…何だろ?……とりあえず、言ってみなよ」
飄々とした態度をとりながらも、話は聞いてくれるらしい…
「あなた様は今現在、22歳で大学4年生ですよね?」
一見すれば、特に問題は見当たらない。
だから、今まで誰も指摘しなかったはずだ。
私の言わんとする事が分かったのか、クリア様の表情から笑みが消えた。
「…………お前って昔から、変な所気にするよね…」
「あなた様の誕生日を考えれば、この違和感に誰もが気付きます。今年の10月に23歳になるあなた様が、なぜ《大学4年生》なのか……」
表情を曇らせ俯いたクリア様を見て、紡いでいた言葉が途切れてしまった。
聞くべきではなかったのかもしれないが、既に聞いてしまった今では取り消せない。
「……あの《事件》が起こった時、僕は受験生だった。でも…受験なんて、しなかったんだ…」
受験…しなかった…?
それは、つまり…
「浪人された、という事ですか?」
自分で言った『浪人』の二文字が、どうしてもクリア様と結び付かない。
文武両道を実践していたクリア様が、勉学の面で高校に入れないとは思えない。
どんな、理由があるのか…
顔を上げたクリア様の表情は、いつも通りの笑顔だった。
「うん!受験すらしてないんだから、入学しようがないよね♪」
無駄に明るく振る舞う様子に、苛つきが増していくのを感じる。
この人は、茶化して話を終わらせようとしている。
思わずクリア様の胸ぐらを掴んで、睨み付けた。
「茶化さないで下さい」
「……お前ね…『1つだけ』って前置きしといて、さっきので質問2つ目だよ…まぁ、いっか…この手、離して」
そう言われて、掴んでいた服から手を離す。
「……………」
「顔、怖いよ?そんなに、僕の事知りたいの?」
まだ茶化すつもりかと思ったが、ここで怒っては話が進まない。
「……はい」
肯定した私を見て、クリア様は困ったような顔をして頭を掻いた。
「受験が出来るような、精神状態じゃなかった。あの《事件》の後、周りから散々責められてさ…僕が、手引きしたんじゃないかとまで言われて…人に会うのが、怖かった」