《中学1年生編》
【大和side】
『羨ましい』…?
考えている内容について聞いたら、そんな返事が返ってきた。
いきなりそう言われて、戸惑わない人間などいないだろう。
「何の話を、なさっているのです?私は、何を考えているのかと尋ねただけですが…」
「うん、だからお前の事」
さも当然のように断言されても、私の頭の中は更に混乱するばかりだ。
クリア様の表情は、嘘を言っているようには見えない。
だから余計に、困惑する。
「それは、先程『もっと、強くなりたい』と言っていた事と関係がありますか?」
武術では既に右に出る者がいない程強いのに、それ以上強くなってどうすると言うのか…
「まぁ、関係はあるけど…あ、僕がそう言ってたのは…身体的な事じゃなくて、メンタル面での事だよ」
話を要約すると、私はクリア様にメンタルが強いと思われている…?
「つまり…私のメンタルが強いから、羨ましいと?私を見て、なぜそう思うのです?」
そんなもの、強い訳がない。
空手部に入るだけでも、どれ程の葛藤があったか…
クリア様からの助言がなければ、私は今でも悩んで決断出来ずにいただろう。
そうだ…私が悩んだ時には、クリア様が相談に乗ってくれた。
では、クリア様には…?
おそらく、クリア様の相談に乗ってくれる人はいなかった。
そのような人が1人でも、当時のクリア様の傍にいれば……
だからこその、『羨ましい』か…
「分かったみたいだね」
わずかな表情の変化を、的確に見極めてくる。
相変わらずの洞察力の鋭さに、素直に感心してしまう。
「はい…あなたは自分に相談出来る相手がいなかったから、誰かにとっての相談相手に自分がなろうとされたのですね」
その『誰か』の心が、自分と同じように壊れてしまわない為に…
「ご名答。察してくれて、嬉しいよ。おかげで、説明する手間が省けた」
察してもらう為に、わざと回りくどい言い方をしていたくせに…
「白々しい。よくも、まぁ…舌先三寸※でモノを言えますね」
【※舌先三寸:上辺だけの言葉で、うまく相手をあしらう事】
呆れたように言うと、クリア様は肩をすくめて自嘲気味に笑った。
「僕の言葉が白々しいと思えるのは、お前が本当の僕を知ってるからさ。大抵の人間は、言葉の表面通りにしか受け取らないもんだよ」
近しい人間や親しい人間ならば、言葉の裏を読む事など容易い。
それは、その人の性格を知っているから…