なんか内圧が
「あ、ありがとう……」
階下から戻ってきたロッコに、電池を手渡される。
『チッ――』
もはや憤りを通り越して、切ない。
ロッコはキッチンの手前のダイニングテーブルの端に寄りかかった。そこの椅子に座っていた周は、携帯から顔を上げて、
「旭に連絡しました」
立って椅子をテーブルの下へ戻す。
「じゃあ僕、着替えて来ます」
『どうぞ。ここで六子がしっかり監視していますので、安心して着替えてきてください』
退室していく周の背中に、そんな不愉快な発言が送られた。
「覗くわけないだろ。ていうかあんたってさ、家政婦とかなの?」
『違う、六子だって言ってるでしょ。いいから早くリュウも連絡したら?』
「ああ……」
はぐらかされたような気もしたが、電池の包装を剥がして充電パックの中のと入れ替える。
よし、充電開始。すぐには起動できないのでしばらく待つ。
間。
……う、気まず。めっちゃ見られてる……。レーザーかよ……。
「あの……」
『はい?』
「そんなに見る?」
『うん。監視だし』
なんかもう……いいや。
「あのさ、歳とか、聞いていい?」
『歳? 知らないし、あまり関係ない』
「え、なんで」
『人じゃないから』
すごい即答。
あちちちち……火傷した。なんでこっちが恥ずくなんなきゃいけないんだよ……。
「てかそれさ……身体、重くない?」
『重いよ』
やっぱり。ていうかそこは素直なんだ。
「何キロくらいなの?」
『全体で九七キロ』
「げ! マジで!?」
『――いや、そんな、でも今は満水だから二キロ、いや三キロくらい多めで……』
でもしかし全体でってことは体重込みなのか。ならコスプレ衣装だけの重さはだいたい五〇キロ……ってそれでもクソ重いな。もうそれコスプレ衣装っていうかコスプレアーマーだろ。
こいつ、マジでフルメタルコスプレイヤーなのか。
あ、そうか……それで鍛えられてるから、あれだけ力持ちになって、俺を運べたのかもな。
うわー……だとしたらなんだろう、やるせない。
あぁ……まったく――
俺って、ほんと何に助けられてんだよ……。
『ちょっと聞いて。たまたま今ちょうど重いだけで、普段はそこまで重くないんだからね』
「ん? あぁそう……」
なんだ? そりゃそうだろ。そんな超重量を一日中着てたら圧死するわ。ていうかそうやって着てるって認めちゃうようなこと言ったら設定が揺らぐだろ。ちゃんとしろ。
まあ、こっちが聞いたんだけどさ……。
「にしても、完成度すっごいよな。どう作ったんだ……オーダーメイド?」
『さ、さあ……』
うわ、なんか湯気が出だした……やっぱり世界観はダテじゃないな。マジで湯気だ。
ロッコはそれを押さえるように、頬に片手を添える。
てかなんだその感じは……。隠すの下手か。
「さあ……って、そんな超絶クオリティ、個人レベルじゃ作れないでしょ」
『う……妙に褒め倒しますね。けどその手には乗りません』
え、なんか、前髪が降りて鋭い目つきだ。湯気が増えて、もう片方の手も頬へ当てた。
これは、照れてるっていう状態か。
あぁそっか……自分のアーマーには思い入れあるんだ、細部のこだわりも半端じゃないし。そこを褒めた感じになって、なんか内圧が上がったようだ。褒められるのに弱いキャラか。
けどそう俺、これが何のキャラか知らないんだよな……。アニメとか結構見てるのに。
「あれ、もしかしてそのデザインオリジナルなの?」
『オリジナル……そうですね。六子はオリジナルです』
「へえ……そりゃ、ますますものすごいな」
何がすごいって、そうなると世界観もオリジナルなんだよな。ほんとすごいわ。
『そうですか……』
金属の指の間から湯気が上がっている。熱そう……あ、湯気じゃなくてドライアイスかも。
「あの、ちょっとその湯気、触ってみていい?」
腰を浮かせて聞いてみると、
『だめです火傷しますよ』
ぴしゃりと断られた。なんか、叱られた気分。
またソファに腰を下ろす――やらかい。
「あ、そう……ほんとに湯気なのか」
いや、ただ世界観を守って言っているだけかもしれない。まあどっちでもいいか……。それか加湿器みたいなのが仕込まれてるのかもしれない。超音波の振動で水を煙にする機械とか。
『……連絡、まだしないんですか』
「あ、そうだった」
携帯をオンにする。まだ虫の息といった充電具合だが、もちろん普通に動く。
マップ機能を呼び出し、現在の座標を示す画像をメールに添付。本文では、現状までのいきさつをかいつまんで、主に俺の恥部分を省いて説明する。
そして現在位置のこと、つまりこの住居とその住人及び所有者についての質問を書く。
最後に、謎のフルメタルコスプレイヤーについては……悩んだが、軽く触れた。
「よし、こんなもんかな」
父上と兄貴に送信し、念のためその履歴を消しておいた。