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蒸気機関少女  作者: コスミ
四章 当ててごらん
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黙示録的な

※5月13日更新分、2話目です。(本日は2話同時更新です)


 ――――ズドッ――――! 


 闇の中で、衝撃が閃光と共に全身を駆け巡った。

 意識――と自覚出来るほど明瞭ではない。

 淡い、わずかな認識空間。それを見ている自覚もない。主体と客体の垣根もない。

 闇の中。全ては、闇に溶け込んでひとつ。

 しかし衝撃が照らした、わずかなシミのような痕跡。

 闇の中で、それを見つめている。

 黒い。

 誰?

 痺れている。

 身体というものを有しているのだ、自分は。その記憶を遠くからようやく引き寄せる。

 思い出した。俺は……。

 黒い。

 あいつだ。

 意識が薄れていく時に、何度か見た……。そう、何度か――複数回だ。

『――あ、もう動いた。やるじゃん竜の心臓……電気ショック一発だ』

 声……なんだろう、意味がわからない。日本語? 音としては綺麗なようだが、妙に心がざわつくような……。

『チッーーもっと何発も食らわせたかったのに……もう一回止まらないかな』

 まぁ、いいか……。なんか怖いし、いいや知らない……。

 ――逃れるように、柔らかい曖昧な方へと沈むに任せて意識を閉じた。


 ……声。

 ……なにか心配そうな。

「……竜さん…………竜さん……風邪引いちゃいますよ……」

 感触。

 揺すられたのは、自分か……身体が、あるのか。

 頭が重い。揺れに遅れて追従する……どろどろの液体が揺れているみたいな。

「……どうしよう起きないなあ……ロッコ呼ぼうか?」

「ん。そだね、お休み中悪いけどとりあえず中運んで貰お」

 ガチャ――。

『お帰りなさい』

「――あロッコ良かった。ちょっとお願い、竜さん寝ちゃって起きないから中に運んでよ」

『ええー?』

 すごい嫌そうな思念が伝わってくる……。

「ちょっとロッコ――――」

 なんか、これから、いたたまれない時間が始まる予感…………嫌だ。嫌だ。

 いたたまれないのは嫌だ……。なにか、巨大なトラウマがあるみたいだ……。

 ――再び逃れるように、意識を広大な闇に溶かして薄めていった。


 ……揺れる。

 ……不快感。

 ……揺れる、揺れる度に、身体感覚と頭がぶつかり合って反発し合うような……。

 ……頭が重い。だるい。

 揺れは、もう来ない。良かった………。安堵感が染み渡る。

 また少し、眠れる……。


 眠たい。だから眠った。

 眠っている……いや、もう覚醒しているかもしれない。

 あぁ、いつの間に眠ってしまったんだっけ……。

 森で熊に出会って、身体が痺れて……。

 そう、今はすごく平らなところに寝ている。柔らかいし……これは森の感触じゃない。

 でも明るい。そう、外? 目を開けると、


「……んぅ……あれ?」


 屋内だった。見覚え……いや違う? いや、来た事がある、けど雰囲気が……暗い?

「げ、夜?」

 窓の外は青い闇。すぐ振り子時計を見ると、その暗さも納得な時間になっていた。

 カーペットの上に寝かされていた。ここはリビングダイニングだ。

 昼に――起きてロッコと会ってシャワーを浴びて、その後に通された部屋だ。

 階段を上がって来た……あれ、それは一回しか記憶がない。


 あ、そうか、ロッコに弓を返して貰うことになって、それで待ってる間に、椅子でつい眠ってしまったのか……ん? その後なんかあったような……ぐ、頭痛ぇ……なんか嫌な夢でも見たのかなぁ……。

 あそうか、しかもまた意識がない内に椅子からここまで運ばれたってのか、くそ……確かにそんな揺れてる記憶もぼんやりあるな……夢であってほしかった。

 やけに鈍い頭を片手で掴み、目をきつく閉じてから開放、ぱちぱちと瞬き。

『旭……旭、起きたよ……』

 とキッチンから、か細く呼びかける声。

 見るとカウンター越しに、妙に姿勢を低くしてこちらを覗くようなロッコと目が合うが、

『ひ――っ』

 すぐに頭を引っ込めて隠れた。

 な――なんだ、その感じは……?

「ん……あー」

 と、ダイニングテーブルに突っ伏していたアサヒが、もぞもぞと起きてこちらを見る。

 まだ眠たげなアサヒの額には、新しいデコ冷やシートが貼られ[休業中]となっていた。

「ふぁあ、おはよう竜くん……悪いねそんなとこに寝かせちゃって」

「あ、いえ、そんな……」

 軽くでも謝られると、さらに露骨に胸がチクリと痛むようになっていた。何故だろう……。

「正直早く起きてほしくてさー、ひとまず起きやすそうなそこで……ほんとごめんね? でもベッドもそんな準備できてないって六子も言うから――あれ。そいや六子どこ?」

『ここです……』

「ぅえ、なんでそんな隠れてんの? はは……なにちょっと可愛いー」


 ――と、

「あ、竜さん起きました?」

 周がラフな格好――というか俺のと同じ型のルーウェアをだぶつかせながら入室してきた。

 袖や裾はロールアップされていたり、やはり胸がほんのかすかにふくらんでいたりと、滲み出るガーリーさが……なんというか、良くも悪くも寝起きをシャキッとさせてくれる。

 おいおいおい大丈夫なのか……その、胸は……!

 もう色々ドキドキして、こっちが先に胸的な終焉を迎えてしまいそうだ……。

 頑張れ心臓――なんか妙に心臓しんどいけど、頑張れ。

「わっ大丈夫ですか? 竜さんその顔……」

 と先に周に心配されてしまった。顔……?

「え……?」

「あー竜くんちょっとほっぺ腫れてるよね、どしたのそれ?」

 アサヒに言われて頬に触れると、痣を押してしまったような痛みがジワっと広がる。

「あ痛で……なんで――」

 痛みが走って――記憶の閃光が通り過ぎる。

「っ――熊――?」

『……あ、やべ』

「え……? なに竜くん、熊っつった?」

「熊がどうしましたか?」

「いやその――ロッコちょっと……ロッコ!」

 立ち上がって、ふらつき、ソファに片手をついて尚も呼びかけた。

『な、なんですか……』

 距離を感じさせる敬語。あぁ――なんだこの嫌すぎる予感は!

 さらに御苑生ふたりの視線が面白いほど集まってきて凝固する中、それでも退けずに聞く。

「あの、あのさ、ロッコさ、ちょっど聞きたいんだげど……いい?」

『……ど、どうぞ』

 立てこもり犯の要求を聞く新米婦警かのような怯え方……なんでそんな――あぁ!

 ていうか何で俺こんな喉ガラガラするんだよぉ――うわぁああ……!

「ロッコってさ、ぞの……あれ持ってる? ――着ぐるみ、さ」

 永遠とも思える一瞬――

『着ぐるみ――それは……竜も、見たと思いますが。どすこい』

 ロッコは頷いてそう言った。


 ――くぅうううぅむぁぁああああああ――――――――っ!!!


 天が裂け、大地が砕け、海が飛び散る。

 頭の中で黙示録的な大破壊の光景が展開される……!

 そんな地獄の嵐の中――対峙するのは、熊と力士。

 レッツはっけよい。


「ふぁあっ…………はぁああ……」


 魂が漏れ出ていった。

 そして膝から崩れ落ちた。

 それはもう、お手本のように膝から崩れ落ちた。


「竜さん……っ」

「ちょと……大丈夫竜くん? あと六子なに? どすこいって……」

『それを語ると長くなります……』

「やめて、ロッコやめてぇ……!」

 俯いて固く目を閉じたまま手を挙げて、我ながら悲痛な声を飛ばす。

『だいじょぶ、六子の口から説明なんて――とてもできません』

「うっ――ふぁぁぁあ……」

「えぇ……? 一体なにがあったんですか……?」

「なんか喪失感がすごいけど……」

「……はぁぁ、すみません――ちょっと、時間ぐださい……落ち着くまで……ずみません」

「あはい、もちろん……ちょっとロッコ、水汲んであげて」

「デコ冷やシート使う? 風邪引いたのかな喉荒れてるみたいだし……」

『そりゃあ……あれだけ絶叫すれば、喉も千秋楽になりますよ……』

「……え? 六子今なんて?」

『いえ、なんでもありませんよ………………ほら竜、水』

「あ……ありがどう」

『待て動くな。――ここ、テーブルにどすこいしとくから……』

 言ってグラスをテーブルにコトッと置くと、ロッコは素早く後ずさりした。

『はい、飲んでいいですよ、どうぞはっけよい』

「ぐ、ロッゴぉぉ…………っ」



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