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蒸気機関少女  作者: コスミ
三章 ところでなんなんだ君は
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御苑生旭かく語りき(下)

「あかりねぇの書き置き?」


「そっそ。周にゃ言ったかね、本文の他に、巨大サイズのデータがあって、それが暗号解けなくてさー……なーんか見た事あってチョロそうな感じしたんだけどなー……なんでか、どーも解けなくってよー、そこで詰まってんのも腹立つから六子ばっか調べてるわけなんだが今」


「暗号……? え、書き置きって、アサヒさんに宛てたものですよね?」

 また聞いちゃった。……もういいや、しばらく興味捏造だ。クルミの礼ってことで。


「そう。古いPC――それこそスタンドアローンのやつに付箋が貼ってあってね、で立ち上げてみたら、その書き置きがあったって寸法」


「え……それ、何て書いてあったんですか?」


「んにゃ、何も書いてない。うさ耳の形の白い付箋だった」


「いや、付箋じゃなく……」


「書き置きはね、要はぁ……ログハウスの存在と、そこに行けってことと、六子のこと――これは結構あっさりした情報量でね、ルックスでしょ、だいたいのスペックでしょ、あと蒸気機関と、燃料電池のことを軽く触れてるくらいで、あと製造に関しては、灯が主導で各方にバラバラで細かくパーツ発注して、組み立ては自分でやったって書いてあって、でその後すごいのは、なんと六子の設計をしたのは、あの例の人工知能だって!」


「え……」

 驚いた……。あの人工知能の話、ちゃんと関係あったんだ。


「ね、すごいよね! しかも生きてる時に設計したのが死後遺ってて、そこに灯なりのアレンジを加えて造ったものだって書いてあんの。びっくりでしょ。いやそんなもん遺ってて勝手に造り始めたらやばやばでしょ? と思って読んでったら、しかもその設計データは灯の頭にしかないなんて、さらにびっくりやばやばな情報飛び出してくんの。そんなスタンドプレーしたら、あの子もうスパイ映画の主役ばりにいよいよ危ないんじゃね? ってさすがに心配になったら、いやそこは大丈夫みたいに長々書いてあってさすがの灯さんだったんだけど、つまりここまで、ほとんど灯個人の仕業なのよ。まるごと信じれば」


「言われてみればロッコのデザイン、灯ねぇの好みって感じもするよね」


「そそそ、でも八割以上――特にアメイジングな基礎部分は、灯じゃ設計できないと思う」


「そうなの?」


「いくらなんでもね……ほんと、人類の最先端すらちょっと越えてるんじゃね? ってレベルだからね、それこそ例のスーパー人工知能ならあるいはってくらい……さしずめオーバード・オーバーヅかな? ……もうね、身体の造りもだけど、燃料電池とかこんな効率で小型化ありえないし。たぶん蒸気機関は灯が足したんだろうと思う、そんな風に読めた。だからね、恐ろしいことに元々は結構スペース余裕だったんだよ。信じられる? 世界最高にリアルでハイスペックなロボで、しかも上半身ある意味モナカなんて伸び代残してたんだよ?」


 モナカ……? 話の流れからすると、空っぽ的な意味かな。空っぼって嫌なモナカだな。


「まぁそれで夢中で読んでると良い所で最後に、重要な部分は暗号化したデータを見てねなんてもう、続きはウェブでー的な、しゃらくせえことになってんのよ」


「あかりねぇ……なんで暗号なんかかけたのかな?」


「そりゃ、さすがに他に漏れたらやばいって判断だろな。独立したPCに入れてるし暗号じゃない部分だけでも相当やばかったからね……ははは、だからほんと超気になるんだよもうー六子のこととかもっと詳しく超ー詳しく書いてあんだろうしさぁ!」


「えーでも、あさひねぇが解けない暗号使っちゃったら意味ないよね?」


「そこなんだよ! なんかさぁ、灯と私にしか解けない安全な方式の暗号だなんて書いてあってさ……知らんわそんなのって話よもー」

 アサヒは、やさぐれた感じで一気にカップをあおった。


「ふぅ……」


『カップはこちらへ』


「ん。ありがと六子、ごちそうさまー」


「あさひねぇ、泡ついてるよ」


「っと、あわわ……」

 指先で拭って、唇の隙間にあてて舐めとる。泡は無事に天国へ逝けただろう。


「はぁ、なーんか頭動かしたら貧血だわ」

 とラジエーターに手の甲をあてながら息をつく。


「大丈夫? ちょっと顔色よくないもんね……寝不足はだめだよ」


「だねー、肌っていうか精神荒れるし……ぅあ、口内炎出来ちゃってら」

 焦点を外して、口内の患部を確かめている様子……なんともいえない悲壮感がある。


 ――この人、見た目は色々特殊だけど、なんかじわじわ人間臭い……まあ単に今は弱ってるんだろうな。元気なときはもっと、港湾リゾート地の青空みたいに圧倒的に明るいのかも。


「ところで竜くんさ、興味本位で聞くんだけど」


 アサヒは、むしろ今までで一番穏やかな表情だった。


「……あ、はい」


「良かったら里のこと教えてよ。半分くらいの人が戸籍ないって本当?」


「え――」


 しかし言葉には恐ろしい貫通力があった。



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