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蒸気機関少女  作者: コスミ
三章 ところでなんなんだ君は
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御苑生旭かく語りき(中)

「……死んだ?」


『お悔やみ申し上げます』


「ん。で原因は未だ調査中――たぶん迷宮入りだろうね、あの世行って本人に聞かない限り。AIって死んだらどの世に行くのか謎だけどね……ははっ、でまあ、そういう調査難航な感じなのは、ハード的な原因じゃないからなわけ。中の問題……つまりAI自身が一番怪しい」


「自殺ってこと?」

 周がさらっとすごい事を口にした。なんとなく、AIという言葉が似合う表情だった。


「あけすけに言うとね。だって他にそうできる存在が無いから。少なくとも、自分が死ぬ事を容認したのは確かだよ、何か別の存在から一方的に殺されることが出来るような形態じゃない――スタンドアローンじゃないらしいからね」


「え、オンラインだったの?」


「んにゃ、分散型。クローズドサークルって言ってたかな……ストーンヘンジとか、何かいろいろ小洒落た呼び方があったみたい。現場が楽しかったんだろうなぁ……いいなぁ。まそんなこんなで、世界は荒れたんだけども、で、時系列を思い出して欲しいんだけど、そのAI生誕&死没した時期が三年前なのね。で、その直後に、六子が造られたと――」


 アサヒがそこでまた、真っ直ぐにこちらを見据えてくる。

「ちょと長くなっちゃったね……でもこういう話面白い? 竜くん」


 すごいタイミングですごいこと聞きますね……。結構なんていうか、食った人だな。


「面白いというか……すごいとは思います。もし、全部本当なら……」


「うんいいね、半分くらい疑っといた方がいい。でもさ、六子見るとさ……強烈でしょ?」


 ――なんだか、もう一度ロッコの中身を確かめたくなってきた。やっぱり人入ってるんじゃねえのか……? それかそう、遠隔操作だ。


「確かにすごいですけど……人工知能ってところは疑問です。たとえば、遠くから操作してる人がいたりしませんかね」

 遠隔操作されてるなら人工知能なんて無くても説明がつくだろ。身体はハイテクでも、メンタルはただの人間ってことだ。そんな感じだしな……。


 とロッコは、少女のように小首を傾げた。

『六子は、そんなにミステリアスなのですか?』


 なんだそれ。妙に腹立つ……。


「いい指摘だねぇ、やるじゃん竜くん。あ、クルミ食べる?」


 とアサヒはポケットから殻つきのクルミをつかみ出していた……なぜか。


「どうやって割るの? ロッコ?」

 周……その怖い手段はなんか嫌だ。


「んにゃ、ふたつ以上あれば、こう一緒に握ってね……」


 とアサヒはクルミふたつを握り締め始めた。肩が震えるほどの全力感。急展開だな……。


「――んん……くぅ! ありゃー、固いやつ引いたな。こうなったら六子様にお願――」

「いや! 俺がやります」

 ロッコにやらせたら殻も実も粉々になりそうだ……むしろ搾油になるな。


「ん? あ、やってみたい? どぞ」


『では、もし出来なかったら六子が竜の手ごと握り砕いてあげるから、安心して』

 さーあ、己の手の存続を懸けたチャレンジとなった。頑張るぞう。


「くはぁ頑張ったら暑いわ……てか保冷剤死んでるやこれ、取ろ」

 とアサヒは、その誕生日パーティ感のあるヘアバンドを取り払う。

 露になった額にはデコ冷やシートが張られていた。何か、文字が書かれている……なぜか。


「あ、見してあさひねぇ――わ、今回直球だね」


 言われて、アサヒはバックミラーを覗いた。

「なに直球なの? 何て書いたっけ――ああ、こりゃノッてる時だね」


 と笑いながらシートに背を預けると、こちらからも文字が読めた。

 ラジエーター、と勢いのある黒マジックの筆致だった。


「テキトーだ。行き詰まって調子悪い時だと、逆にめっちゃ凝ったのになるからね……はは」


「ボクあれ好きだったなぁ、[つめた~い]と、[広告募集中]っていうの」

 なんだそれ……デコ冷やシートを何だと思ってるんだ。


「またまた……そやって周が絶賛しすぎて逆に使いづらくなったからね[広告募集中]とか。もう最近さ、毎回悩むようになったよ……」

 なら書かなきゃいいでしょ。


「ってあれ竜くん割れたの?」


「あ、はい両方」

 手を差し出して見せる。

「わっ、すごっ、両方とも!? えだって片方だけだよ割れるの普通」


「竜さん握力すごいんですねぇ」


「まあ、頑張りました……」

 手の命が懸かってたからな……。


『チッ――』


「だってさ、こう二個同時に握るとね、弱い方が一個負けて割れんの、そういうメカニズムなんだよ人と同じで。なのにえ? なに竜くん残った二個めどうやった? こっそり嚙んだ?」


「いや……ぐっと両手で押して、まぁ頑張ったんです」


「えぇすげぇー……男の子だねー。クルミ食べな?」


「あ、じゃ、いただきます……」


「あさひねぇ、早く話続けてよ」


「おとと、そだったそだった。六子が遠隔操作されてるか? って話だっけね」


『六子の自己感覚では、この本体のみで完結しているようですが……』


 本人の言い分じゃあ何も効力はない――とはいえ、そこまでウソっぽくも聞こえなかった。

 いや待て、でもこいつウソとか巧そうだからな……。にしてもクルミうまっ。


「にゃー正直確証ないんだよねぇ軽く調べたんだけど。あり得るのは――てゆか可能性として実行できるのはぁ、灯が操作してるんじゃないかってとこなんだけど、それはちょっと犯人像としてしっくりこないんだ」


「確かに灯ねぇさんは、そんなことする感じじゃないかも。冗談とかユーモアないもん」


 冗談やユーモアでこんな大仕掛け……?


「うん、そう。それに六子とは人格が離れ過ぎてる。灯はもっとAIだもんむしろ」

 どういう人格なんだ……。


「――でもま、そこは誰か雇って喋らせることもできるだろうけど……そんなことをする動機がなさそうだもんね。それで負うリスクに釣り合うリターンが、どんなものか想像できない」

 自問するようにつらつらと喋るアサヒ。もっとクルミくれないかな。


「でも実行できそうな人物は灯ーヌしかいない、というジレンマ。だからもうね、この問題は置いといてだね、まずは六子の記憶をなんとかして引き出したいっていう思いでここ数日いろいろやってるんですけどもねーぇ……どうにもこうにもなんですわ。はぁ灯ーヌめぇ……史上最大のミステリアス置き土産残して消えやがってぇちくちょーぅ……どうしろっての六子と暮らせってか」


「あ、それいいなぁ」


 周が反応すると、アサヒは一瞬フリーズしてから再起動した。

「言ってて思った。マジ良いわそれ、もう調べるの諦めて六子と同棲しながら休もっかな」


 おい、諦めんなよ……!

「いや、あの……」

「だってさ六子最高じゃん? 料理上手だし可愛いしカッコいいしロボだし可愛いしさ?」

 やべ、現実逃避が速い! 大気圏から脱出しそうな勢いだ! あとロッコ湯気やめろ。

「あの! 何か手がかりとかないんですか?」


 言ってしまい、はっとする。……なんだ俺、興味しんしん丸か。


「手がかりー……そう手がかりっていうかね、たぶん答えはそこに書いてあるんだ」

 なにぃ……? なんだそれ。


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