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蒸気機関少女  作者: コスミ
三章 ところでなんなんだ君は
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熊を探して


 篭城して兵糧攻めにあって即身仏になりそうな、我が心……。

「あのぉ……」

 とついに白旗――切なく声を上げる。

 すると周が笑うのを止めて、いち早く反応してくれた。

「あ、どうしました竜さん、もしかして具合が……」

「おわっと大丈夫?」

 身体は元気だと示す意味も込め、顔は伏せたまま手だけ上げてひらひらさせる。

「いや違……ロッコを、その……、閉めて」

 間。

 ――クーラーとアイドリングの音をご堪能ください――とパンダ。

「あぁ竜くんそれで顔伏せてたの? そんな気はしてた」

「……あの、ロッコならもう、閉まってますよ」

「えっ?」

 本当だった。久々に目を開けて見た世界はチカチカしていたが、ロッコが閉まっているのはちゃんと確認できた。

『そんなもん用が済んだらすぐ閉めるに決まってるだろ……』

 すごい蔑むような声と前髪……。てか絶対そのセリフ言う資格ない!

「あれ、でもこれ半ドアじゃない?」

 とアサヒがぐいっと身を乗り出して、ロッコの胸元の下部にある狭い隙間を覗き込む。同時にもう手を伸ばしている。

『え――』

 ロッコは身を引いて逃れようとするも、もともとシートに背中がついていた。

 カチ――ッと、しっかり閉まったらしい音。

「あぁ、ほらやっぱりねー。役得セクハラしちゃったよー」

「ふえぇ、ロッコうっかり?」

『う……音をさせないよう慎重に閉めたつもりが、やり損なっていたようです』

 なぜ音をさせない必要があるんですか……。いやありがとうたぶん俺のためですね。

 というか、ここまでずっと、どうでもいい時間ばかりが流れているような気がする……。

「あの――」

 とそのことを言いかけた時、またロッコの胸を凝視していたアサヒが慌てて、

「あっえ、ちょっと六子それ――凹んでない?」

「えっ? あねぇ、ちょとラテ気をつけて……」

「え、え、待って六子動かないでちょっと……傷? なになんか汚れじゃないよねそれ?」

 ぐいぐい身を乗り出す。後部座席に片手をつき、ほとんど顔がつきそうな距離でロッコの表面を見つめる。

『おいなに見てんだよ竜テメこら……』

 空咳しながら首をぷるぷるさせて俯く。てか、お前もこっち見んなよ……。

 視界のギリギリの端で、アサヒがその疑わしい箇所を指先で触れているのが見えた。

「やっぱ凹んでる……なんだろう」

「ほんと? ボク気づかなかったけどなぁ」

「うんすげぇ小さいもん。点だよ。でも六子これ、なんかどっかぶつけた?」

『ぶつけた……そんな気もします』

 アサヒは唸りながら、指先でその箇所を何度もなぞっている。

「そっかぁ、うぅん……そんな簡単に凹むような強度じゃないんだけど、まさか撃たれた?」

 そこで、へらっと笑う。口にしている言葉とのギャップがすごい。

「ちょっ怖いこと言わないでよあさひねぇ……」

「んにゃぁははは――なんとなく思っちゃってさー。んまぁそれに銃創だったらもっとまるいしな……てゆかぶつけるなんて六子もずいぶんうっかりさんだねぇ、やっぱ不調?」

『今日は、記録内においては最低水準みたいです……』

 俺を見るなよ俺のせいかよ……。

 でも実際、こんなやつでも、俺の命の恩人なんだよな……恩人というか、恩ロボ? あぁ、ほんと最低なやつに恩を受けちまったな……。しかしなんだろう……どこか引っかかるな……まぁいいや、何しろこの場は適当に流して一応熊の情報でも聞いてみるか。

 そう、熊だよ熊!

 俺の目的はそれ一点のみだ。この変な集まりの情報なんか、ほどほどで……いやぜんぜん要らない。里と関わってるならあとで誰かに聞けばわかることだし、関わってないのならとっとと離れてそれっきりが一番だ。

 どっちにしろここで長く接触していて得なことはあまりないだろう。

 だからなるべく早く――いやベッドに一泊させてもらってからサヨナラだな。うん。

「あの俺、熊を探してるんですけど、知りませんか」

 と急に言ってみる。

 アサヒが助手席に戻ってすぐ質問に反応――脊椎反射なみの速度だ。

「熊? このへんはあんま居ないと思うよ」

「……ん、ボクも見たことないし、あまり詳しくないから……」

『くま……どういうくま?』

 皆の視線を一身に集めるバトンが、アサヒ、周、ロッコと一巡りしてこちらに帰って来た。

 ちょっと背筋を正す。

「えーっと、ツキノワグマにしては大きめなやつで、俺が午頃遭ったやつなんですけど――」

 と、それくらいしか情報がない……というか父上の仇とは熊違いかもしれないしな……。

 いや、まそれなりにデカい熊ならなんだっていいか。仇っつっても父上余裕で生きてるし。

「――まぁ、そんな熊です。矢が当たったので、どこかでもう死んでるかもですが……」

「へぇ、今どき矢かぁ、ボウガン?」

「いえ弓です」

 と答えると、アサヒはくいっと眉を上げて笑った。

「すごい話。でもなんで竜くん熊なんか探してんの? 普通に駆除目的?」

「いや……なんていうか、前に父が出くわしたんです。三週間くらい前に。それで父が軽く怪我したんで、それなら俺が代わりにリベンジしてくるってことになって……」

 言いながら、なんか妙な話になってきたなと自分でも思う。本当は、一人前の里守としての実力証明にする意図のほうがメインだから……。その部分を隠してしまうと、こうも単純な親思いストーリーになるのか。恥ず……。

 あ、父上が熊にやられて死んだってことにしとけばもっと自然だったかもな……軽い怪我くらいのリベンジで半月も森の中籠って探しまわったりするなんて、どう考えても変だろ。

 やべぇ、やっぱ考えるとウソ臭いな……。

 まぁいいや、もしつっこまれたら実は父上死んでましたってマジ顔で言おう。

「竜くん……偉いね」

 アサヒは口元を手で覆った。涙声だ。

「えっ……」

「父親の為にそんな……熊を探して山中をさまようなんて……まるで童話みたい」

 どうやら信じてくれたようです。まぁ……まるっきりウソではないんだけども……。

「ボクらからすると、うらやましい親子関係です……」

「そそ、ほんと私ら親とは疎遠でさー……てまぁそんなふうに軽く愚痴れるだけまだ良いほうだろうとは思うけどね……代わりに姉妹の結束が強まってるみたいなとこもあるし」

「姉妹……」

 とつい言ってしまった。あまり触れないほうがいいところだよな? すまん周……。あれ、いやていうか、姉にバレてるのか? その――女装趣味っていうか……あ、違うか、中身は女の子なメンタルなんだ。その中身は公認というかバレてて、外側をガーリーにデコレーションする趣味についてだけ、秘密しておいてくれってことか。……ややこしいな。

「ほーら、美人姉妹でしょー」

 とアサヒはもう笑顔で、周に頬を寄せつつこちらに並べて見せた。

 う……ものすごく困る。まだ瞳が潤んでいて余計に……。

 これ、どう返せばいいんだ……。

「ちょっ、あさひねぇ竜さん困ってるでしょ……」

 照れながら姉を押し戻す周。グッジョブ助かりました。

「なにいいじゃん。で六子さ、その熊って心当たりないわけ? だって竜くん探しにきたってことはあのログハウス近いんでしょ? 熊が出没した場所と。違う?」

 急に鋭いことを言う。ちょっと飛んでる人だからって油断してたら危ないな……。

「えぇ、まぁたぶん……」

 ぼんやり濁しておきながら、ロッコを見てバトンパス。

『六子が記憶する限りでは、生きたくまとは遭遇したことも接近したこともないです』

「あそっかそっか、三週間前だと六子記憶ないんだったね」

『ええ』

「じゃ確認すると、先週、灯があそこ出てったってらしい五日前から今までの間で……その間は遭遇してないのね?」

『そうですね』

「だそうですよ、ごめんね竜くん力になれなくて」

 間。

 ………………うん?


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