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蒸気機関少女  作者: コスミ
三章 ところでなんなんだ君は
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リバース危機

「ごちそうさん……」

 カップを置いて、つい、軽く礼をしてしまった。

 不覚。――そんな、礼をするほど美味しかったわけじゃないんだ。そういう設定でござる。

「……では、準備出来ましたら、下行きましょう」

 周が下向きに手を合わせ、ロッコとこちらを交互に見て言う。

「ん、俺はいつでも。っとちょっと携帯……」

 立ち上がり、携帯を確認。なんと返事はまだだった。父上も兄貴も、そこまで重度の夜行性だったっけ……?

 頼れるものは自分ひとり、か……。

 うーん……今から出掛けてってアサヒなる人物に会わされるらしいけど、さて、こうも情報支援がないとなれば、ちょっと待ってもらったほうがいいか――

『おい――』

 とロッコが、ぬらりとキッチンから出てきて絡んでくる。

『――どうだった? 六子の内部から出てきたコーヒーの味は』

 ひっ――!

「ひぅっ……今リバースしてもう一回味わいそうになった」

『へぇ、セルフおかわり機能があるんだ?』

「ねえよそんなの……」

『あ、反芻(はんすう)か』

「ねえって意味一緒だろ」

『意味は違うよ。厳密には』

 そこで厳密性を求めるか……。

「まあ確かに反芻って言えば牛専用のスキルだけどさ――」

「や、牛だけじゃないです」

 と周が声を上げた。

「え?」

 かつてないセリフで割り込んできたな……。

「ヤギやヒツジ、キリンとかバッファローとか、色々な偶蹄目(ぐうていもく)の動物が反芻をするんですよ。あとなぜか、テングザルも反芻と似た行動をとると観察されたそうです」

「へぇ……テングザルって?」

「テングザルは――天狗っぽい、変な猿です」

「えっじゃあ、ほんとに鼻が長いの?」

 と聞きながら、鼻の前にげんこつを二つ連ねて見せる。

「やぁ、そんなに垂直じゃなく……こう、でろんとしてます」

 でろん、を全身の脱力で示した周。……うん、君は今、いい鼻になっていたよ。

『猿と言えば霊長類ですか、人と同じ』

 ロッコが自分の立場を利用して一方的に嫌なことを言い放った。周はちょっと苦笑いで、

「そうだよ」

 とだけ返す。ロッコは小首を傾げ、指先を顎にやった。そして、

『では、人でも反芻ができるかも知れませんね』

 妙に俺を見つめながら言う。

 ――そういやこいつ、外で俺がヘビと再会しそうになってた時も、じっと後ろで黙って見てたんだよな……うぅ、恐怖と狂気しか感じない。

「う、おい、なんだそれ……」

『いや……別に?』

 前髪ラインが憎たらしい波形になった。腹立つ……。

「んふふ――」

 と、息を抜くような、周の特徴的な笑い声。

「――やっぱり何て言いますか、ラテ飲んで打ち解けた感じ、ありますね」

「いや……」

 ねえよ、と喉まで出かかった。今日は色々押しとどめるの忙しいな喉。

『打ち解ける……いいですね、なかなかヴァイオレンスな語句で。打って解けるなんて……』

 おぉ、ヴァイオレンスという言葉はお前にぴったりすぎるな……。今、クレイジーに次いで暫定二位にランクインだ。ちなみに整理すると、

 ロッコお似合いワードランキング――一位クレイジー、二位ヴァイオレンス、三位サイコ。

「ふふ。じゃ行きましょっか」

 周は明るく言って、早くも階段へと向かう。時間に追われているというより、楽しみで待ちきれない、といった様子。

 むぐ……ここで「やっぱ待ってくれ」とは言い出しづらい……。まあいい、そのアサヒとやらも交えて、むしろこっちから色々聞き出してやる。情報も独力で現地調達だ!

「よし、行こう」

 周に背中に続き、階段を降りきった。

 先ほどお世話になったバスルームに続く脱衣所の蛇腹戸が近くにある。そこを通り過ぎた奥は、すぐ裏口のドアだ。その向こうはクルマを停めているデッキ下の空間に繋がっている。俺は玄関ではなくそこから上がらせてもらっていた。衛生的な観点から。

「あ、そうだ俺の靴ってまだ……」

 洗われていてまだ乾いてない、と皆まで言う前に周は察してくれたらしく、玄関の方へ向かいかけたところで振り返った。

「あっそうでしたね……どうしよ、ロッコ」

 周のやや見上げる視線を受けたロッコは、まだ静かに階段を降りてくる途中だった。

 H◯NDA社製なのかな、というような滑らかでロボロボしい足運び。背筋ピーンすぎる。

『履物なら、裏口にサンダルがあります。――それ履いてとっとと出ろ』

 前半は周を見て言い、後半は俺を見て吐き捨てた。

「良かった、ではそれで」

「ああどうも……」

 裏口へ向かって進みつつ想う……殴りたい。鉄をも貫く拳が欲しい、と。



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