主人公、爆誕っ!
こうして、企画は始まる。
とりあえず打ち合わせはLINE上でやり取りしようということになった。まったく便利な世の中になったものだ。俺の若い頃だったら、全国に散らばった連中を取りまとめて何かを話し合うってのは、それだけで一仕事だっただろうさ。
ネットが一般的になったのは、俺がかなり大きくなってからのことだ。そもそも、パソコンの普及率っていうのを考えたって、「ネット上で気楽に集合!」なんて出来るわけが無い。遠方との連絡はどうしても電話になるのだし、そうすると多人数でのやり取りは……いや、やめておこう。俺の年がばれる。
ともかく、打ち合わせだというのに雑談のような雰囲気が強いのは、そんな気安さも一因だろうか。ここに、会話のログをそのまま載せてみよう。
12:39 百 というわけで、緑さんは何か希望とかありますか?
12:40 百 主人公は女の子がいいとか、男の子がいいとか
13:00 緑 そうですねー、どちらでも大丈夫です!
13:01 緑 百佳さんは希望ありますか?
13:01 百 私も特には
13:10 緑 ジャンルも決めないとですね
13:18 百 どういう系統の小説が好きですか?
13:26 緑 私はファンタジーとかコメディですね
13:27 百 あー、私もそこらへんが好きですね
13:27 百 書いても楽しいし、読んでも楽しい
13:30 緑 ラブコメとかも好きですねーw
13:32 百 ああ、奪い合わせるのもいいww
13:32 百 ヤンデレとか好きです
13:34 緑 ヤンデレ!!
ヤンデレに食いつきやがったか。
正直、『ヤンデレ』という言葉自体は目新しいが、強すぎる愛情の果てに狂気に堕ちるというテーマは普遍の感があり、使い古されてもいる。
さあ、若いやつらはこのかび臭い設定を、どういじってくるんだ?
13:35 百 おお、まさかの( ´∀`)人(´∀` )ナカーマですか!?
13:36 緑 はい、まさかの( ´∀`)人(´∀` )ナカーマですw
13:37 百 っと、つい興奮して
13:37 緑 (((o(*゜▽゜*)o)))で、ジャンル決めですね!
ぬあ? ヤンデレはどうした!! あっさりスルーかっ?
13:40 百 オススメは異世界系です〜。 色んな要素盛り込めるんで
13:42 緑 異世界良いかもですね!
13:42 緑 バトルも恋愛もコメディもなんでもござれですね
13:44 百 そうなんですよ。ってことでファンタジー系でよろしいでしょうか?
13:46 緑 はい、そうしましょう
13:47 百 他には・・・何から決めましょうか
13:49 緑 ストーリーか世界観ですかね?
13:51 百 あー、いっぱいありますよね
学園モノとか冒険者モノとか王宮モノとか・・・
それによって色々と変わってくるし
13:52 緑 そうなんですよねー…
13:53 緑 モンスターの有無とか魔法の有無とか
13:54 百 魔法にしても、その発動条件とかが・・・ね
14:02 緑 決めること多いですね
彼女たちは、まるで小船で沖合いに投げ出されてしまった漂流者のようだ。
いや、もっと性質が悪い。アヒルちゃんボートで大海に漕ぎ出したがごとく、足掻かねば進退すら怪しい。
14:09 緑 ストーリーから決めてしまいますか?
14:09 百 どういうのにしましょうか?
14:10 百 笑いとかがあれば!
うむ。笑いは外せないらしい。ならば彼女の出番だろう。
17:33 アザとー ただいまです。大まかに笑いありのファンタジーですな?
18:01 百 おかえり〜
18:01 百 すごい、一言簡単にまとめた!!
18:13 緑 お帰りなさーい
18:21 アザとー 王道を逆手にとって笑いをとるっていうのもあるですよ
18:23 緑 なるほど…
18:28 アザとー 一番簡単なのは、王道どおりになると思っている主人公をつくって、王道から外れた展開にワタワタする姿を鑑賞する・・・・ですかね。
18:59 百 それなら今流行りの転生モノとか?
19:08 アザとー 「あ~、転生したんだからチートがあるんだろ」と思いきや役に立たない能力ってパターン?
19:19 アザとー う~ん・・・・・思いっきりこけおどしな能力か、敵も呆れるほどばかばかしい能力か・・・・・・
19:32 緑 召喚できるけど鶏…とかですかね?←
19:37 アザとー しかも調理済みとか・・・・
19:45 百 お腹すいた時にメッチャ役立つ
19:49 緑 焼き鳥ですかね唐揚げですかね
19:49 百 お腹を空かせた敵の前でいかにも美味しそうに食べる
19:51 百 スパイシーを効かせた丸焼き希望
19:56 緑 物凄い勢いで襲われそうですねw
20:03 アザとー ッそれはむしろ、勇者の肩書きはあっても、敵を釣るための餌ですな。
調理済みチキン、結構じゃないか。物語の発想なんてそんなもんだ。
書き手は良く「降る」という言葉を使うが、これはあながち間違いではない。発想も、文章も、唐突に身の内に訪れるものだ。そのあまりの突然な来訪は稲妻にも似て、まさに「降ってきた」ように感じるものである。しかし、そんなに都合よく「降る」訳が無いのだ。何も無いところに何かが訪れる道理は無い。
書き手は、どんなに愚かな者であろうと無ではない。生きてきた人生分の、知識、経験、感情といったものが蓄積し、人格を作っているのである。それが突然、何かのきっかけをもって繋がる瞬間がある。現存のモノの組み合わせから新奇なものが生まれる瞬間を、われわれは「降る」と知覚しているのである。
とりあえず物語の足がかりとなり、「降って」くるのを促すためなら、チキンだろうが、ポークだろうが上等だ。
21:08 百 チキンの丸焼きを召喚できるチート!
斬新すぎるwww
21:19 百 むしろ調理経過が気になるw
21:23 百 あれだ、チートらしく精霊とかに愛されてるんだけど、生活力皆無で心配されてるから、好物であるチキンの丸焼きが何の代償もなしにいつでもどこでも召喚するできる能力を与えられたんだよ
21:25 百 だがしかし、主人公がそれを召喚するたびに、何処かの食卓でチキンの丸焼きが消えるw
22:18 アザとー ある意味、家庭の敵だ・・・・
22:52 緑 たまに唐揚げとかw
22:52 アザとー いいねえ。嫌われ勇者完成だ。
こうして、チキンを召喚してしまう主人公、テンネは生まれたのである。