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短編

星空

作者: RK


 ――世界から空が消えた。

 

 大戦末期に使用された新型爆弾のもたらした影響によって空には消えない雲が広がっていた。

 空の色は灰色。かつては青かったと言う。夜になると星と月が瞬き美しいと聞いた。

 だが、どちらも見たことなどなかった。厚い雲が無くなることなどなかったのだから。

 偶然、酸性の雨から身を守るために入ったビルでの出会い。

 そこはかつて何かを展示していた場所だったのだろう。

 奥には重そうな扉があった。雨がやむまで暇を持て余すのもなんなので俺は扉の向こうに行くことにした。何故だが好奇心を刺激されたのだ。

 そして、俺は生まれて初めて星空を見た。

 天蓋一面に広がる星の瞬き。時折見える流れ星。それは幻想的な空間で言葉を上手く発することが出来ない。それ程までに初めて見た星空というものに見惚れていた。

「誰ですか?」

 声を掛けられて初めて俺以外に人がいることに気がついた。身構えて声のした方を向くと一人の少女が立っていた。雰囲気からして同業者ではないことが分かったので緊張を解く。

「ああ、すまない。雨が降ってきたから雨宿りをさせてもらおうと思ってね。しかし、凄いな…」

 再び天井を見て溜め息を漏らす。

「プラネタリウムって言うんですよ」

「ぷらねたりうむ?」

 俺は首を傾げる。俺の見た目に反した動作に少女が噴き出した。

「あの、すみません…、なんだかおかしくって…。えっと、プラネタリウムというのはあの機械ですよ。曲面状の天井に張られたスクリーンに星の動きを投影する機械なんです。プラネタリウムの語源はプラネット、惑星から来ているんですが恒星の動きも再現しているそうですよ」

「そりゃすげえ。作り物でここまで綺麗だったら本物はどんだけ綺麗なんだろうな…?」

「とても美しかったと聞いてます。ほら、例えばあの星を見てください」

 少女が指差す方向を見る。星が無数にありすぎてどれだかわからない。

「どれだ?」

「あの柄杓見たいな形をした奴です」

 形を教えてくれるも柄杓の形なんてどこにも見当たらない。俺が困惑していると少女は機械の操作盤を弄った。すると星と星が線で結ばれた。そうすれば俺にでも柄杓の形を見つけ出すことが出来た。

「あれは大熊座と言います。七つの星で構成されていて北斗七星とも呼びます。大熊座を構成する星の中に北極星と言うのがあって一年を通してみることが出来るので自分の位置を把握するのに使われたそうですよ」

 少女は楽しそうに星について語る。

「君は星が好きなんだな」

「大好きです!本物の星を見ることはできませんが、いつか必ず本物の星空を見たいと思ってます!」

 満面の笑みを浮かべて少女は語った。

 それから雨がやむまで少女が語る星の話を聞いていた。

「雨が止んだからそろそろ行くよ」

「そうですか」

 少女は少し寂しそうな顔をした。だから俺は少女に少しだけついてきて欲しいと頼んだ。この少女には笑っていて欲しい。だから俺はあることをしようとしていた。

 そこはビルから少し離れた場所である。酸性雨に耐えうる特殊シートの覆いを取り去る。その瞬間に少女の息を呑む声が聞こえた。

「FMD-25。それがこいつの名前」

 かつての大戦に使われたであろう兵器の一つだ。俺が発見したお宝とも言える。

「なにをする気なんですか…?」

 緊張感を孕んだ声で少女は訊ねてくる。俺は「いいから」とだけ言うとコックピットに乗り込む。

 主機を稼働させ電力を供給させる。残量を確認する。おそらく大丈夫だろう。

 俺はFMD-25の砲身を上空に向ける。全エネルギーを砲身に注ぎ込む。アラートの文字が煌々と浮かび上がり危険を訴えてくるがそれを全て無視する。

「よし…、行くぜッ!」

 引き金を引く。その瞬間、空に光の柱が突き刺さった。

 それと同時にモニターの明かりは消え去った。どうやら完全に死んでしまったようだ。

 コックピットから出ると砲身が完全に融解していた。それから少女の方を見る。少女は上を見つめたまま動かなかった。

 俺も空を見上げる。そこにはぽっかり空いた穴があった。

「やっぱ本物の方が綺麗だな」

「そうですね…」

「過去の兵器だってこういう使われ方なら不満もないだろうに」

「そうですね…」

 少女は心ここにあらずと言った様子だった。

 俺は苦笑すると空を見上げた。

 いつか雲を失くして、空一面の星空を見せてやろう。少女の顔を思い浮かべて誓った。

 少女の笑顔は満点の星のように輝いていた。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。世界観が好きです。 楽しめました! 主人公と女の子のやりとりをもっと書いて、絆が深まったことを表した方が自然な感じもします。偉そうなこと言ってすみません…
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