センターの魅力見せてあげる
中心で踊る私たちに、拍手が湧き上がる。
大広間いっぱいに広がる音。
(いい反応)
——まあ、そのほとんどは。
(私に、だけど)
軽く息を整えながら、視線を上げる。
その先に——
「素晴らしかったわ」
(来た)
人々の間を抜けて現れたのは、気品を纏った一人の令嬢。
グロース様。
この場の“頂点”。
「グロース様、ごきげんよう」
スカートの裾をつまみ、優雅に一礼する。
「そう言っていただけて、光栄ですわ」
顔を上げると、彼女はじっとこちらを見ていた。
値踏みするような視線。
(……いいわね)
そういうの、嫌いじゃない。
「あなた、面白いことをするのね」
くすり、と笑う。
「退屈な舞踏会が、一気に華やいだわ」
(合格、ってところかしら)
「恐れ入りますわ」
にこり、と微笑み返す。
ほんの一瞬の沈黙。
そして——
「ねえ」
グロース様が、手を差し出した。
「よろしければ、私とも一曲踊っていただけないかしら?」
ざわり、と空気が揺れる。
(へえ)
完全に、“指名”ね。
「……光栄なお誘いですわ」
差し出された手に、自分の手を重ねた——その瞬間。
音楽が、再び流れ出す。
グロースが、すっと手を引く。
(……来る)
まるで“自分がリードする”と宣言するような動き。
(でも——)
「そうはいかないわ」
私は逆に、引き返す。
一歩。
音に合わせて、踏み込む。
軽やかなドレスがふわりと広がる。
安定したヒールが床を捉える。
(この装い、この動き)
——負ける理由がない。
ステップを刻む。
ターン。
流れるように、間合いを詰める。
(取った)
一瞬、主導権を奪う。
「……まだまだね」
小さく、呟く。
でも——
次の瞬間。
ぐい、と手を引かれた。
「っ——」
体勢が、わずかに崩れる。
(なに——)
そのまま、引き寄せられる。
気づいた時には——
完全に、リードを奪われていた。
「甘いわ」
グロース様の声。
余裕のある微笑み。
ステップが変わる。
さっきまでとは違うリズム。
速い。
鋭い。
(……っ、上手い)
ただ踊っているだけじゃない。
——“見せている”。
観客の視線を、すべて掌握している。
「あなた、面白いけれど」
くるり、と回される。
抗う余地もなく、流れに乗せられる。
「まだ、私の舞台の上に立つには早いわね」
(……言ってくれるじゃない)
でも。
口元が、自然と上がる。
(最高じゃない)
一歩、踏み込む。
一歩、踏み込む。
音を捉える。
正確に、狂いなく——
でも、それだけじゃ足りない。
(“魅せる”)
視線を上げる。
——観客へ。
一人。
また一人。
目を合わせる。
ほんの一瞬だけ。
でも——
(ちゃんと、“自分を見られている”って思わせる)
それができる。
それが、私のやり方。
くるり、とターンする。
スカートがふわりと舞い上がる。
その一瞬、視線が集まる。
(——掴んだ)
誰かが、息を呑む。
誰かが、目を逸らせなくなる。
そして。
(……あ)
その中に、一人だけ。
明らかに“違う”反応をしている視線があった。
見開かれた目。
震える手。
今にも、何かを叫び出しそうな——
(……いるじゃない)
口元が、わずかに緩む。
ステップは止めない。
むしろ、加速する。
(いいわ)
だったら——
もっと、見せてあげる。
「目、離しちゃダメよ?」
誰にともなく、そう呟いた。
でもそれは——
確かに、“届いていた”。
◇
「素晴らしかったわ。今日は、完敗ね」
グロース様が、ふっと微笑む。
「グロース様もお見事でしたわ」
私は軽く一礼する。
「正直、このドレスと靴でなければ——負けていたかもしれません」
本音だった。
この衣装がなければ、あの動きはできなかった。
「いいえ」
グロース様は、ゆるく首を振る。
「あの視線の配り方。あの“魅せ方”——」
少しだけ、目を細めて。
「流石だったわ」
(……見抜かれてる)
思わず、口元が緩む。
やっぱり、この人は——
ただ者じゃない。
「あら」
グロース様が、ふと視線を上げた。
「もうこんな時間なのね」
くすり、と笑う。
「もっとあなたと踊りたかったけれど……またの機会にしましょう。またね。」
すっと距離を取る。
そのまま、背を向けて歩き出す——
その時。
「——アイドルさん」
(……え)
足が止まる。
心臓が、一拍遅れて跳ねた。
(今——)
ゆっくりと振り返る。
でも。
グロース様は、もうこちらを見ていない。
ただ一度も迷わず、令嬢たちの輪の中へと消えていく。
(……アイドル?)
この世界に、そんな言葉はない。
少なくとも——
私が知る限りでは。
「グロース様……!」
思わず、声を上げる。
でも、その声は。
ざわめきの中に、あっさりと飲み込まれた。
(……なんで)
胸の奥が、ざわつく。
——まるで。
見透かされたみたいに。
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