地下アイドル、悪役令嬢になる
「フォーレスト・カルセイナ、お前との婚約を解消させてもらう」
——来た。
ざわめきが広がる大会場。
LEDとは違う光でゆらゆら揺れるシャンデリアの光。
ああ、これ。
“断罪イベント”ってやつね。
ゲームで何度も見た光景。
悪役令嬢が、みんなの前で婚約破棄されて、破滅に向かう——あのシーン。
(……やっぱり、こうなっちゃうか)
私は小さく息を吐いた。
でも。
(だから何?)
胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。
——こんな舞台、ぬるすぎる。
◇
私は東京で地下アイドルをやっていた。
そこそこファンもいたし、地下の中じゃ上澄みってやつ。
あの日も、いつも通りライブだった。
照明が落ちてきたのは、本番中。
ぐらっと視界が揺れて、
次に気づいたときには——私は潰れていた。
(だからあのオンボロ劇場は嫌だって言ったのよ、私。)
……で。
目を覚ましたら、ここ。
豪奢な天井、動きずらい重たいドレス、歩くのも一苦労な高いピンヒール。
そして理解した。
(ああ、これ——転生ってやつね)
しかも、ただの転生じゃない。
(よりによって、悪役令嬢)
フォーレスト・カルセイナ。
第三王子の婚約者で、そして——破滅する女。
……笑える。
でもまあ、いいわ。
どんな舞台だって、センターは私。
——悪役令嬢?上等。
ファンゼロスタート?
ふふ、何回やってきたと思ってるのよ。
地下で這い上がるのは、得意分野なの。
(……とはいえ)
ちらり、と脳裏に浮かぶのは、前世の光景。
最前で、必死にペンライトを振ってたあの子。
遠征してまで来てくれてた古参。
認知したとき、泣きそうな顔してた——あの子。
(……ああいうの、嫌いじゃなかったな)
一瞬だけ、胸がきゅっとなる。
でもすぐに振り払う。
——今は、この世界。
だったらやることは一つ。
「まずはコラボ相手よね」
思わず口に出すと、隣に控えていた侍女が首を傾げた。
「こらぼ……でございますか?」
「ああ、ごめんなさい。ええと……有名な方と関わるにはどうしたらいいかしら?」
言い換えると、侍女は納得したように頷いた。
「有名な方ですか?お嬢様も公爵令嬢であり、第三王子の婚約者ですので、十分に名の知れた存在かと」
「それは“肩書き”でしょ。欲しいのは“人気”よ」
きっぱりと言い切る。
侍女は少し驚いたように目を瞬かせた。
「人気……でございますか」
「ええ。人が集まる理由。見たいと思わせる力。……そういうの」
そう呟きながら、私はふっと笑う。
——作れるわよ。
ゼロからだって。
だって私は、“そうやって生きてきた”。
「有名な方となりますと……第一王子の婚約者であるグロース様などいかがでしょう。来月の舞踏会にご出席されると伺っております」
へえ、と私は目を細めた。
同じく王子の婚約者。
(いいじゃない)
「その舞踏会、もちろん出るわよね?」
「はい、既にご予定に」
「なら決まりね」
私はドレスの裾を軽くつまんで、くるりと回る。
——初ステージは、舞踏会。
「見せてあげるわ。“悪役令嬢フォーレスト”のデビューライブを」
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