第七十話『百鬼夜行』
「なんちゅう数やねん……!」
「まさに百鬼夜行だな」
本部の外に出る一同。
街を埋め尽くさんばかりに溢れる禍霊を見る。
禍霊が見える人間は殆どいないようで、パニックが起きるような事態にはなっていない。
禍霊たちも今はまだ引き寄せ効果に従っているだけ。
しかし直に、各々好き勝手な行動をしだすだろう。
「こんなに集まるものなんですね」
「千代田区自体が禍霊を引き付ける土地だからな。それに上乗せされてるって訳だ」
天平に言葉を返しながら、達実が一歩前に出る。
「とにかく、こうなったら一体残さず祓うしかない。禅。お前は集まる禍霊どもを都度、間世に送り込んでくれ」
「了解っす」
禅は答えると、屈んで跳躍。
あっという間に拝揖院本部ビルの屋上まで到達する。
「"遥谺主"。禍仕分手」
禅は憑霊術を発動し、立て続けに禍仕分手も発動。
音の反響を操る能力で下にいる天平たちと街中の禍霊を間世に転送する。
なお禅自身は、自分の声が自分には聞こえないような操作をしているため現世に留まったまま。
逆打ちの効果が続く限りは禍霊は集まり続ける。
禅はそれらを片っ端から間世に転送しなければならない。
一方、間世に転送された天平たちは禍霊との戦いを始めていた。
「俺と十文字はそれぞれ単独、後の五人は固まって戦え。丈一郎。お前が引っ張れよ」
「うっす!」
その言葉を合図に達実と琴子はそれぞれ別の方向へ離脱。
場には天平たち五人が残る。
「"扯輹"」
丈一郎が憑霊術を発動。
「トバすぜぇ!」
目の前に迫る大量の禍霊に向かって加速して突撃。
音速を遥かに超えて加速したことでソニックブームが発生し、周囲に破壊を撒き散らし、付近の禍霊たちを吹き飛ばす。
「おう。お前らもやれ」
加速開始地点にワープして戻った丈一郎が天平たちに言う。
「"明星"!」
「"臈闌花"」
「"霳霞霹靂"!」
「"悦背搲"」
天平たち四人も憑霊術を発動。
それぞれに攻撃を放つ。
光線に花びらの刃、雷撃が乱れ飛び禍霊を祓っていくが、次々と新手が現れる。
「あんっ♡」
禍霊から攻撃を受けた仁尋が嬌声をあげる。
しかしダメージは無く、逆に禍霊が身体を刻まれる。
彼女の憑霊の悦背搲はダメージを快感に変換し、その快感分だけ相手に裂傷を負わせるという能力を持っている。
「仁尋さん。真面目にやってください」
「やってるよう!」
純礼から冷たい口調で言われ、仁尋は頬を膨らませて抗議する。
それを見た純礼は溜息を吐いて、禍霊の軍勢を睨みつける。
「それにしても、本当に凄い数だわ……」
☆
「ふっ!」
迫りくる禍霊を次々と斬って捨てていくのは禍霊対策局第三部隊副隊長、十文字琴子。
腰に提げていた刀を抜き、ばらりずんと斬り祓っている。
そこに猛スピードで一体の禍霊が迫る。
背中にターボエンジンを取り付けた細身かつ長身の人型禍霊。
獣の咆哮のようなエンジン音を轟かせながら、それが琴子に体当たりを仕掛けてきた。
「はっ!」
琴子はそれを刀で迎撃。
しかしターボエンジン禍霊は目にも止まらぬ動きで回避。
回避した先から再び琴子に襲いかかる。
「スピードが自慢のようだが……相手が悪かったな」
琴子はそう言うと、刀を構える。
「"斬撃時君"」
刀の名前を唱える。
彼女の持つ刀は蠱業物十三振の一つだ。
ターボエンジン禍霊はそんなものは関係ないと言わんばかりにスピードを緩めずに迫る。
しかし、琴子が刀を振るい始めた瞬間に、その動きがピタッと停止する。
これが琴子の持つ斬撃時君という名の蠱業物の能力。
斬撃を放つ際に、その斬撃の対象となっているものは時が停まったように動きを封じられる。
再び動けるのは、斬撃が放たれ終わった時。
そして、その時には対象は斬り伏せられている。
「──次」
真っ二つになって伏せるターボエンジン禍霊を一瞥もせず、琴子は冷たい声音で呟いた。
☆
「おらよっ!」
自身の何倍もの体躯を誇る禍霊を数十メートル先まで殴り飛ばすのは禍霊対策局第一部隊副隊長、唱石達実。
仕立ての良いスーツを風に靡かせながら、禍霊たち相手に豪快に拳を振るう。
「ん?」
禍霊を殴り飛ばし続ける達実。
飛んでいった禍霊たちが細切れになる。
それをしたのはイソギンチャクのような姿をした禍霊。
無数の触手は鋭利で、ほとんど刃のようだ。
それをビュンビュンと振り乱している。
「刃物はマズイな」
それを見た達実は苦笑。
しかし言葉ほどの焦りは微塵も感じられない。
そこにイソギンチャク禍霊が触手を振り乱しながら迫る。
達実は一歩も動かずスーツとシャツを脱ぎ捨て、上半身裸に。
筋骨隆々の肉体を惜しげもなく晒す。
「"昏鹿"」
そして憑霊術を発動。
仄かな光が発生し、達実の全身を包み込む。
次の瞬間にはイソギンチャク禍霊の鋭利な触手が達実を斬り刻む。
鍛え上げられた肉体を容易く斬り裂き、肉片と血を派手に飛び散らせる。
見るも無惨な状態となった達実の肉体。
しかしそれが、ブチュッ! ブチュッ!っと嫌な音を立てながら再生していく。
欠損部に新たな組織が生まれ肉となって千切れた身体を繋いでいく。
瞬く間に元の傷一つない、彫刻のような美しい肉体を取り戻した。
これが達実の憑霊、昏鹿の能力。
超高速肉体再生だ。
「さて。斬り刻むしか芸がないなら、終わりにするが。どうする?」
挑発を飛ばす達実。
イソギンチャク禍霊は理解しているのかいないのか、怒ったように乱暴に触手を振り乱す。
それは達実の身体をバラバラに斬り刻むが、瞬く間に再生される。
「どうやら、ないみたいだな」
達実はそう呟くと、拳を握り、踏み込む。
次の瞬間には凄まじい加速で一気にイソギンチャク禍霊に迫り、霊力を込めた拳を放つ。
防御の暇もなく殴りつけられたイソギンチャク禍霊は四散。
肉片が飛び散るが、それが達実のように再生することはなかった。
「やれやれ」
イソギンチャク禍霊は祓ったが、禍霊はまだまだ沢山いる。
それを見て、達実の溜息を吐く。
「きりがないな、これは」
☆
副隊長二人を始め他のメンバーが思う存分に力を振るう中ただ一人、天平だけは苦戦を強いられていた。
「"明星・射……うおっ!」
攻撃を受け、抖擻発動をキャンセルして回避。
通常より明らかに動きのキレが悪く、多数の禍霊相手に攻撃もままならない。
純礼のおかげで取り戻していた調子は、先ほどの掛祀禍終発動後の発作によってまた下落していた。
「"明星・遍照"!」
人差し指を天に向け、広範囲攻撃を発動。
それにより自身の周囲の禍霊を焼き払う。
だが、すぐに別の禍霊たちが迫ってくる。
──くそっ! 数が多すぎる。掛祀禍終を使えば一掃できるけど……。
掛祀禍終を発動するか考える天平。
発動にはなんの障害もないが、先ほどの発動後のあの感覚がそれを躊躇わせる。
──次に発動したら、また暴走する。
天平にはほとんど確信に近い予感があった。
もしここで暴走すれば純礼たちに危害を加えかねない。
それだけは避けたい天平は暴走への恐怖からまたしても精彩を欠くことになっている。
「天平くん!」
「えっ? がっ!?」
自分を呼ぶ純礼の声に反応する天平。
次の瞬間には横合いから禍霊に殴りつけられ、吹き飛んで行った。
「なにをしてんねん!」
それを見た夏鳴太は呆れたように言いながら、天平を殴り飛ばした禍霊に電撃を放つ。
しかしそれが当たるよりも速く、
「は?」
別の禍霊がその禍霊に襲いかかる。
頭からかぶりつき、そのまま喰らい尽くした。




