第六十九話『逆打ち』
天平たちは四ツ谷駅からそのまま拝揖院本部へとやって来た。
ある事を調べるためだ。
エントランスに入ると、見知った人物たちが目に入った。
「おう。昨日ぶりだな」
「久しぶりー」
「道葉さん。仁尋さん」
そこにいたのは昨日会ったばかりの丈一郎と、こちらは夏休み中盤にプールに行った以来の仁尋。
「珍しい組み合わせですね」
「少し調べる事があってな」
「もしかして、あの竜のことですか?」
「まさか、お前らもか?」
「はい。先ほど遭遇して、破壊しました」
「ぐうぜーん! 私もさっきソレ倒してきた」
純礼と仁尋の言葉に、丈一郎が溜息を吐く。
「偶然じゃねえだろ」
「ええ。明らかに作為的なものですね」
「問題はどういう意図かってことだ。まぁ、それを調べに来たンだがな」
そこで場に新たな人物が現れた。
「副隊長」
仁尋と丈一郎の声が重なる。
現れたのは二人の男。
一人は天平もよく知る人物。
「あれ。天平くんたちもいたんすね」
「相楽副隊長。お久しぶりです」
相楽 禅。
禍霊対策局第四部隊の副隊長。
そしてその隣にいるのは、日に焼けた浅黒い肌をした長身の男性。
やや派手な色合いのスーツを着崩した伊達男だ。
「お前が噂を天才少年か。第一の副隊長をやってる唱石だ。よろしくな」
「あっ、はい。帚木天平です。よろしくお願いします」
禍霊対策局第一部隊副隊長、唱石 達実。
天平は差し出された右手を握り、握手をかわす。
その後、夏鳴太も同じように挨拶をかわし、七人は移動。
やって来たのは資料室。
打ちっぱなしコンクリートの部屋に、かなりの数の書架が並んでいる。
「ここには拝揖院の収集した資料がある。その中には呪物に関して記された物もある」
「あの呪物に関して記された資料を探すという訳ですね」
純礼の言葉に達実が頷く。
「ただ問題があってな。ろくに整理されてないから、どこにどういう資料があるのかまったく分からない」
「片っ端から見てくしかないってことすね〜」
「ここから探すんか……」
げんなりした様子の夏鳴太。
こうして探索が始まった。
各員が手分けして呪物関連の資料を探していく。
ジャンルごとに分けてあるというようなことも無く、乱雑な並び。
まさに片っ端から手当たり次第に見ていかなければならない。
「え〜っと? これは……呪物関連の本じゃないな」
天平は手に取った本をパラパラとめくる。
内容を確認し目当ての本でないことを確認し、書架に戻す。
そしてまた横の本を取り、内容を確認。
これまた目当ての本ではなく、書架に戻す。
それを何度も繰り返して行く。
その中で、ある本を見つけた。
──結界術の本か……。これも違……ん?
パラパラとめくり中身を確認し、目当ての本ではないと溜息を吐いて本を閉じようとする。
しかし、その際にある記述が目に入った。
「どういうことだ……?」
「なんや見つかったんか」
「うお」
不意に背後から声をかけられる。
声の主は夏鳴太。
頭の後ろで手を組んで立っている。
「なにしてんだよ?」
「ちょっと休憩や。それよりなんか見つけたんか」
「ああ、いや、ちょっと気になるの見つけて」
天平はそう言って再び本に視線を落とす。
夏鳴太は近づいて、それを横から覗き込む。
「ここ弑逆礼法について書かれてるんだけどさ」
天平が文章を指でなぞる。
そこには神殺しの結界である弑逆礼法についての記述がある。
「弑逆礼法って掛祀禍終より前に生まれた術らしいんだよ」
「はん?」
天平が指でなぞった文章を読む夏鳴太。
そこには天平が言う通り、弑逆礼法という結界術が掛祀禍終という術が生まれるよりも前に編み出されたという事実が書き記されている。
「それがなんやねん?」
「いや、だって弑逆礼法って掛祀禍終に対抗するための術だろ? 掛祀禍終より先にあるのはおかしくないか?」
「おかしないやろ。逆垂加があるやん」
「逆垂加は掛祀禍終とほぼ同時に生まれたものらしいんだよ」
再び天平がある文章を指でなぞる。
そこには『ほぼ同時期に編み出された掛祀禍終と逆垂加』という文章がある。
正確には逆垂加のほうが早く、それを見たある寄処禍がそれを参考に編み出したのが掛祀禍終だ。
しかし、憑霊術の奥義たる掛祀禍終が禍霊の術を真似して編み出されたという事実は拝揖院にとって好ましくない。
そのため、それを記した文言はあらゆる資料や記録から削除されている。
「ほんなら確かにおかしいな」
「だろ?」
掛祀禍終や逆垂加に対抗するための術が、それらより先に編み出されていた。
この事実が何を示すのか、天平はそれを考えてる。
「まぁ確かに気になる話やけど、今はあの竜のこと調べんのが先やろ」
「あ、そうだった」
夏鳴太に言われ、天平は本を戻し、作業を再開する。
しばらくすると、
「あったー!」
仁尋の声が響いた。
仁尋は壁付けのカウンターデスクに本を持っていき広げる。
そこにぞろぞろと他のメンバーが集まる。
「ほら! これじゃないですか?」
仁尋が指差すそこには、竜の挿絵。
天平たちが戦ったものとよく似ている。
「百鬼夜行を避ける術?」
天平が本を覗き込む。
そこには『東海の神、名は阿明、西海の神、名は祝良、南海の神、名は巨乗、北海の神、名は禺強、四海の大神、百鬼を避け、凶災を蕩う』という呪文のような言葉が記されている。
「陰陽道の呪術だな。禍霊の侵入を阻む結界を生み出す術だ」
達実が術の説明をする。
「ここに書かれている神は道教の海神で竜の姿をしているとされる。この呪物はその術を代行する物ってことだ。おそらく千代田区を囲う形で配置したんだろうな」
「俺らが倒したのがソレってことっすか? でも犯人はなンの為にこんな……」
「逆打ち……」
純礼が小さく呟く。
「逆打ち?」
それに天平が反応。
純礼は言葉を返さず、無言で本のある部分を指差す。
そこには四体の海神たちの力が記されている。
東の海神は雷や洪水、西の海神は風、南の海神は炎、北の海神は雪を操るとされる。
「あれ? 俺たちが戦ったのって西のやつだよね? でも能力は東のやつのだ……」
「道葉さんたちが戦ったの海神の力は西の海神のものよ」
「私が戦った海神は炎を操ってたよ!」
天平にほっぺをつけながら仁尋が言う。
彼女の所属する第四部隊は城北地区。
本には北の海神は雪を操るとされている。
「配置が逆になっています」
純礼は仁尋を天平から引き離しながら、そう言う。
「これが逆打ちってことか? なんの意味があんねん」
「配置を逆にしたら効果も逆になるってンなら……」
そこで最悪の想定が全員の頭に浮かぶ。
「第三の連中に連絡しねえとな」
「いや〜ちょっと遅かったみたいっすよ」
「ん?」
スマホを取り出す達実に禅が苦笑気味に言う。
その視線の先。
資料室の入口に一人の女性がいた。
スーツを着こなす、長身の女性。
長い黒髪をポニーテールにした凛々しい雰囲気の女性で、腰には日本刀を提げている。
十文字 琴子。
禍霊対策局第三部隊の副隊長を務める女性だ。
「十文字……。お前も竜を?」
「ええ。なぜ?」
達実の質問に琴子はやや困惑しながら答える。
その答えに達実たち一同のテンションが露骨に下がる。
それを見た琴子はさらに困惑。
「最悪の状況になったな」
達実は琴子に事情を説明。
そのまま全員で資料室を後にする。
「百鬼夜行を避ける術を逆打ちしたら、百鬼夜行を呼び寄せる術になる。そんなんあります?」
「ンな単純な話かよっつうなあ」
「俺もそう思うが、現にそうなってる。見ろ」
「!」
達実が夏鳴太と丈一郎に言葉を返し、立ち止まる。
エントランスの中心、ガラス張りの正面玄関から外が見える。
そこから見える光景──
「すごい数の禍霊が集まってきている!」




