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眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO  作者: タカノ
第五章
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第六十八話『Oxblood』

 三人は同時に声のした方へと視線を向ける。

 そこにいたのは天平たちと同年代らしき少年。

 甚平風の赤いジャケットにダボっとした黒のサルエルパンツという出で立ちで歩いてくる。


「止まりなさい」


 その少年を純礼が冷たい声音で静止する。

 少年は微笑みを浮かべ、素直に足を止める。


「倒したんだ、と言ったわね。なにか知っているの」


「知ってるもなにも、アレをここに置いたのは僕だよ」


 その言葉に三人は警戒心を最高レベルに引き上げる。


「なにが目的なの? 貴方は何者?」


「目的は教えられないかなぁ。何者かって云うのは何処の誰かってこと? それなら殃祚って組織に所属してるよ」


「殃祚……!」


「禍仕分手」


 少年の身元が割れ、三人は臨戦態勢に入る。


「"臈闌花・刳為咲"」


 純礼は禍仕分を発動した後で抖擻発動を行い、夏鳴太も刀に電撃を迸らせる。


「天平。お前は下がっときや」


「……分かった」


 夏鳴太の言葉に天平は頷きながら言葉を返す。

 擬神を降臨させない特殊なやり方で掛祀禍終を発動した天平だったが、発動後に憑霊が眠りに就くのは通常の発動と同じだったようだ。

 今の天平は明星の力を使えない。

 数歩下がって、純礼と夏鳴太を見守る。


「やる気なの? じゃあ、ちょっと遊んでいこうかな」


 緊張感のまったくない様子で呟く少年。

 

「"あかね"」


 少年が憑霊術を発動。

 だらんと下げた右腕から赤い液体が滴り落ちる。

 血だ。

 それを見た純礼がはっと息を呑む。


 血を操る能力を持った、殃祚の構成員。


「──お前か!!!」


 床が砕ける程に強く踏み込み、純礼は一気に駆け出す。


「びっくりした。いきなりなに?」


 血を凝固させて生成した刀で花びらのドリルを受け止める少年。

 先ほどまで冷ややかな態度と表情だった純礼が一転して激情を露わにしているのを見て、困惑している。

 一方の純礼は射殺すような目で少年を睨みつけている。


「早蕨愛生という女性を知ってる!?」

 

 純礼の言葉に少年の表情が変わる。

 刀でドリルを押し退け、距離を取る。


「もちろん知ってるよ! 愛生さんは僕のお母さんになってくれる人だよ!」


「……………………は?」


 少年の放った言葉に、理解できないという表情を見せる純礼。

 天平と夏鳴太は固唾を呑んで場の成り行きを見守っている。


「もしかして君が純礼ちゃん? 愛生さんの娘の? そうだよね? よく見たら目元がそっくりだ! じゃあさじゃあさ! 純礼ちゃんは僕のお姉ちゃんってことだね!」


「なにを……なにを言ってるの!」


 純礼は再び叫び、少年に詰め寄る。

 花びらのドリルを突き出すが、簡単に避けられる。

 

「手ぇ出してええんよな?」


 夏鳴太も少年に向けて駆け出す。

 少年はそれに対し手をかざす。

 そこにバチバチと音を立てながら、赤い閃光が迸ると、真っ赤な球体が生成される。

 血の砲弾ともいえるそれを、ろくに狙いも定めず放つ。


「どこ狙ってんね……うおっ!?」


 あらぬ方向へ攻撃が放たれたのを呆れたように見ていた夏鳴太だったが、身体が血の砲弾に引き寄せられる。


「なんやねん!?」


 咄嗟に身体を雷化し、攻撃をやり過ごす。


「ああ、君、玻流夏の弟くんか」


 少年の口から兄の名前が漏れる。

 夏鳴太は確かにそれを聞いたが、反応は示さない。

 それを見ている少年の背後から純礼が迫る。


「僕は血に二つの性質を付与できるんだ。一つは引き寄せ合う性質」


 唐突に少年が自身の能力を説明しだす。

 彼の言う通り、先ほどの血の砲弾は夏鳴太の体内を流れる血と引き寄せ合うことで、強引に命中させた。


「もう一つは反発し合う力」


「っ!?」


 少年に迫る純礼の身体が吹き飛ぶ。

 少年の体内の血と純礼の体内の血が反発し合い、強引に押しやったのだ。


「聞かれてもいないのにペラペラと……。余裕のつもり?」


「うん! だってお姉ちゃんたち、あんまり強くなさそうだし!」


「このっ……!」


「純礼ちゃん。挑発に乗ったら駄目だ!」


 少年の言葉に怒りを露わにする純礼に天平が静止するように言葉をかける。


「別に挑発したつもりはないけどなあ。思ったこと言っただけで」


「それが挑発言うねんボケが!」


「おっと!」


 夏鳴太から放たれる雷撃を素早い動きで避ける。

 雷には血など流れていないので、血の反発で吹き飛ばすような真似は出来ない。

 そしてそれは、身体を雷化させた夏鳴太に対しても同じことだ。


「強ないかどうか試してみろや!」


 夏鳴太は身体を稲妻に変えて少年に突撃。

 凄まじい速度で迫るが、少年はなんなくそれに対応する。


「ああん?」


 稲妻と化している自分の動きについてこられることを訝しむ夏鳴太。

 少年は自身の血流を加速させて身体能力を上げているのだが、夏鳴太には知る由もない。

 

「ちょこまかすんなや!」


「当ててみなよぉ」


 振るわれる刀と、そこから迸る電撃を俊敏な身のこなしで回避し続ける少年。


「"臈闌花・刳為咲"──"大輪"」


 純礼が巨大な花びらのドリルを生成し、放つ。

 夏鳴太も巻き添えになるような攻撃だが、彼は雷化しているため問題ない。

 とはいえ、普段の純礼ならしないだろう行為。

 彼女は明らかに冷静さを欠いている。


 少年は巨大な花びらのドリルに向けて手をかざす。

 バチバチと赤い閃光が迸り、巨大な血の砲弾が放たれる。

 花びらのドリルを相殺し、花びらと血が一面に飛び散る。


「臈闌──」


「よっと」


 さらなる抖擻発動を行使しようとする純礼。

 それより早く少年が血の槍を生成し、適当な方向に投擲。

 その血の槍に体内の血を引き寄せられた純礼が浮き上がり、飛んでいく。


「くっ……!」


 花びらの刃で血の槍を斬り刻み、回避。


「"臈闌花・刳為咲"」


「"どうためし・一ツ胴"──"えんじん……"」


 純礼は花びらのドリルを生成し、駆ける。

 夏鳴太は居合の構えを取る。

 その際に二人ともに、床に散らばった血痕を踏んだ。

 次の瞬間──


「ぐふっ!?」


 二人同時に出血。

 口、鼻、耳、さらには目から血が噴き出す。


「なんや……ねんコレ……」


 突然の出来事に技の発動を中断する夏鳴太。

 彼は構えを取る際に雷化を解除してしまっていた。


「僕の血に触れると出血しちゃうんだよ」


「さき言えやボケェ!」


「ふっ!」


「うわっと!」


 悪態をつく夏鳴太を尻目に、純礼は素早く攻撃を再開。

 不意を突くことには成功したが、寸前で回避される。

 少年は血で刀を生成し、花びらのドリルと打ち合う。


「どうして母にあんなことをしたの!?」


「あんなこと?」


「母の体内に血を入れたでしょう! そのせいで今も母は昏睡状態よ!」


「ああ、そのことか」


 思い出したように笑う少年。

 その背後から夏鳴太が迫るが、血の反発で吹き飛ばされる。

 身体は雷化させたが、制服に血が付着していた。


「あれは悪意があってやったんじゃないよ」


 夏鳴太を遠くに追いやり、少年は話を続ける。


「本当の親子になるためさ」


「……なんですって?」


「なくても親子は成立するけどさ、やっぱりあった方が良いと思うんだよ。血の繋がり」


 血の繋がり。

 その言葉で純礼は少年が母にした行為の意図に気づく。


「そんなことの為に……?」


「そんなことって酷いなあ。僕には重要なことなのに」


「ふざけないで!!!」


 激昂する純礼。

 ドリルを突き立てるが、その腕を掴まれる。


「お姉ちゃんにも僕の血をあげる」


「くっ……!」

 

 少年は言いながら、刀を振り上げる。

 そこに、


「っ!?」


 天平が不意打ち。

 飛び蹴りを浴びせ、少年の頬を蹴り抜き、吹き飛ばす。


「俺のこと完全に意識から外してたろ? 傍観してるだけだって」


「ははっ……」


 片膝をつき、口元の血を拭う少年。  

 

「顔を蹴られたのなんて初めてだよ」


 立ち上がる少年。

 その全身から凄まじい殺気が放たれる。


「本気でやってあげるよ」


 少年が右手をかざす。

 その言葉に天平たちは身構える。

 

「……なんてね」


 少年の右手、その親指に付着していた血が床に落ちる。

 すると、そこから煙が立ち上がる。

 さながら赤い煙幕。

 それが周囲を覆う。


「そろそろ帰るよ。これ以上は父さんに怒られちゃう」


「待ちなさい!」


「あ、そうだ。僕の名前はとく。弟の名前だよ。覚えておいてね」


 赤い煙幕の中で少年──犢の声が響く。


「それじゃ、またね。お姉ちゃん」


 その言葉を最後に犢の霊気が消える。

 やがて煙幕が晴れると、彼の姿はどこにも無かった。



           ☆



 犢との戦闘後、三人は涌井の元に戻り、現在は車の中。

 涌井への報告を終えた後、車内は重い沈黙に包まれている。


「ごめんね、純礼ちゃん」


「……なぜ謝るの?」


「いや、アイツ逃がしちゃったから」


「貴方のせいじゃないわ」


「まぁ、全員の責任やな。けったいな能力持っとったし」


「能力を知れたのは良かったわ。次は必ず仕留めてみせる」


「その意気だよ」


 車内の雰囲気が和らぐ。

 天平は安堵の溜息。


「俺も知れて良かったことあるわ」


「なんだよ?」


「クソ兄貴の居場所や。多分、殃祚に所属しとる」


「貴方の兄の名を口にしていたものね」


「そういえば」


「島根におったアイツも知っとった。もう確定やろ、コレは」


「じゃあ二人とも、殃祚を追えば仇討ち出来るってことか」


「そうなるなぁ」


 なんの気無しに言う天平。

 しかし、彼自身も殃祚に関わりの深い人間がいることを、まだ知らない。

 

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