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眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO  作者: タカノ
第五章
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第六十六話『竜』

「あン?」


 道葉と呼ばれた男が振り返る。


「早蕨じゃねえか。なにしてンだ?」


「校外学習で歌舞伎の観劇に」


「ガッコの授業で歌舞伎を見ンのか?」


 特攻服に身を包んだリーゼントと男と親しげに言葉を交わす純礼を見て、周囲がざわつく。


「知り合い?」


「第一部隊のみち じょう一郎いちろうさんよ」


「あ、禍対の人?」


「この二人は第二の新人です」


 純礼は丈一郎に天平と夏鳴太を紹介する。


「帚木天平です」


「帶刀夏鳴太いいます」


「ああ、知ってる。天才小僧と蠱業物持ちの奴な」


「て、天才小僧?」


 丈一郎から飛び出した自身へのまさかの人物評に天平は困惑する。


「寄処禍に覚醒して二ヶ月とかで掛祀禍終を習得した奴がいるって話題になってたぜ」


「そうなんですか……」


「それより道葉さんはここでなにを?」


「これから任務で、さねを待ってンだよ」


「吉丸さんを?」


「もうとっくに時間過ぎてンだがな」


 明らかに苛立った様子の丈一郎。

 その後方から一人の男が近づいてきた。


「おはようございます。じょうさん」


 男がそう挨拶した瞬間、丈一郎のこめかみに青筋が立つ。


「遅えぞ! 實ぇ!」


「朝から怒鳴らないでくださいよ」


「もう昼過ぎだ! ボケッ!」


「あれ? 早蕨さんじゃん」


 丈一郎の罵声を無視して男は純礼と挨拶を交わす。


吉丸よしまる さねさん。この人も第一部隊」


「帚木天平です」


「帶刀夏鳴太いいます」


 純礼の紹介を受けて、天平と夏鳴太は先ほどと同じように挨拶をする。


「どうも、吉丸です。よろしく」


 にこやかに挨拶する實。

 その隣では丈一郎があからさまに苛立った様子でいる。


「さっさと行くぞ!」


「お二人で行くほどの任務なんですか?」


「ちょっと面倒な事案でね。君たちも一緒に来る? 良いですよね? 丈さん」


「好きにしろ!」


 丈一郎はそう言って、肩で風を切って歩く。

 天平たちも、それに続いて歩き出した。


「今回の事案は禍霊でも寄処禍でもなく呪物が変性した霊性生物でね」


「ああ、なるほど」


「どういうこと?」


 實の短い説明で理解したらしき純礼に天平が問いかける。


「禍霊や寄処禍じゃないなら、間世には転移させられないってこと」


「せやから周囲の被害に気をつけなアカン。ただ祓うだけより格段に難易度は上の任務ゆうことや」


「その通り」


「なるほど」


 純礼と夏鳴太の説明を受けて、天平もようやく理解する。


「着いたぜ」


 丈一郎がそう言って立ち止まる。

 やって来たのは地蔵橋南東児童遊園。

 小さな公園で、道路を挟んだ向かいにも同じような公園がある。

 そちらの公園は地蔵橋東児童遊園と言って、千代田区の公園だ。

 つまりここは中央区と千代田区の区境に位置している。

 周囲には規制線が張られ、人っ子一人いない。


 その公園に竜がいた。

 西洋的な蜥蜴に似た身体に巨大な翼を生やしたタイプではなく、蛇に似た身体に鹿のような角を持つ東洋的な竜だ。

 緑の鱗を煌めかせ、宙を蛇行して動いている。


門前もんぜんじゃく


 丈一郎が両手を合わせて唱えると、周囲一帯を結界が囲う。


「結界?」


「門前雀羅。簡単に言えば人払いの結界よ。霊能者以外には結界内部を認識出来なくするの。拝揖院本部を囲っているのもこれ。これで戦闘音も外には漏れないわ。万が一にも民間人が迷い込んでくることもない」 


「入ってこれたら霊能者やからな。スカウトすればええ」

 

「へぇ〜」


 結界を張り終えた丈一郎は規制線を潜って公園内へ侵入する。


「お前らは見学してろ」


「分かりました」


 純礼がそう返すと頷いて、こちらを威嚇するように唸っている竜に向き直る。


「来いや」


 丈一郎が手の平を上に指をくいくいと動かす。

 人語を解するのか、あるいはその動きを挑発と捉えたのか竜が空中を蛇行しながら迫る。


「"扯輹ひくふく"」


 丈一郎が憑霊術を発動。

 外見的な変化はまったく無い。


「トバすぜ」


 丈一郎の姿が消える。

 次の瞬間には竜の下に現れ、そのままアッパーカットを放つ。


「■■■■■─!」


 竜が上空に打ち上げられる。

 

「■■■─!」


 その状態から長い尾を打ちつけて反撃するも、既に丈一郎の姿はない。


「え?」


 天平が困惑の声をあげる。

 彼の視線の先には丈一郎。

 竜に攻撃を放つ前にいた位置に立っている丈一郎の姿だ。


「アレが丈さんの憑霊術。超加速」


 實が天平たちに丈一郎の能力を説明する。


「一旦止まると、加速を開始した地点に戻るんだよね」


「なんやヨーヨーみたいっすね」


「まさにそう。バカみたいな能力だよね。ぷぷ」


「聞こえてンぞ實ぇ!」


 丈一郎は實を怒鳴りつけながら、再び加速。

 本来なら音速を遥かに超える速度を出せるが、今回は周囲への被害を考慮し大きく抑えている。

 それでも目にも止まらぬ速度で一気に距離を詰める。

 竜の懐に飛び込みアッパーカット。


「■■■─!」


 またもや打ち上げられた竜。

 再び尻尾で反撃するが、そこに丈一郎は既にいない。

 加速で一気に距離を詰めて攻撃、その際に加速が止まるため、次の瞬間には加速を開始した地点にワープするかたちで戻る。

 自身の憑霊である扯輹の能力による丈一郎の無敵のヒット&アウェイ戦法だ。

 

「■■■─!」


 しばらく丈一郎のヒット&アウェイ戦法に翻弄されていた竜だが、次第に彼の能力を理解し始めた。


「■■─!」


「ああン?」


 何度目かも分からない打ち上げの際に、口を大きく開き直線状の小さな竜巻を放つ。

 それは真下ではなく、能力によって丈一郎が帰還した位置。


「バカじゃねえみたいだな」


「避けちゃ駄目ですよ丈さん」


「分かってンだよ!」


 實の忠告に乱暴に言葉を返す。

 避ければ公園内に被害が及ぶ。

 間世ならともかく、現世では問題だ。

 そのため丈一郎が取る選択肢は回避ではなく迎撃。 

 拳を握り、


「オラッ!」


 迫る竜巻を殴りつけた。

 霊力を込めて放たれた拳は竜巻を打ち消す。

 しかし、わずかに残った風が四方に吹き荒れ、木々をへし折る。


「あ〜あ。始末書ですね。丈さん」


 半笑いの實。

 丈一郎のこめかみに青筋が立つ。 


「テメェはいつまで突っ立ってやがンだっ! 手伝いやがれ!」


「お前らは見学してろって、丈さんが言ったんじゃないですか」


「そのお前らにお前は入ってねえンだよっ! ボケッ!」


「ならそう言ってくれないと」


 丈一郎に面罵されても涼しい顔の實。

 数歩踏み出して、右手をかざす。


「"みづどもえ"」


 かざされた右の手の平に水が発生。

 それは逆巻きながら、細く双方向に伸びてゆく。

 やがて完成したのは水色の三叉槍。

 實はそれをしっかりと握り、振るう。

 すると大量の水が発生し、城壁のように公園を取り囲む。


「■■─!」


 またしても竜が口から竜巻を放つ。

 丈一郎もまた同じように霊力を込めた拳で殴りつけ迎撃。

 それにより風が吹き荒れるが、水の防壁がそれを受け止め、周囲への被害を防ぐ。


「實! アレやるぞ!」


「アレって……『必殺! 水面叩きつけ無限ループコンボ!』のことですか?」


「ンな名前にした覚えはねえがソレだ!」


 實が三叉槍を振るう。

 浮いている竜の真下に水溜りが出来る。

 次の瞬間、それが炸裂。

 竜を空高くに打ち上げる。

 打ち上がった先の上空には、いつの間にか跳躍していた丈一郎。


「オラッ!」

 

 扯輹の能力で加速降下し、蹴りを放つ。

 そのまま猛スピードで落下。


「よっと」


 實は三叉槍を振るい、落下地点に水の層を作る。

 水面への落下の際に生じる衝撃は速度と距離によって変わる。

 今回は数十メートルの高さから、音速に近い速度で水面に衝突する。

 その衝突は計り知れない。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──!!!」


 丈一郎によって高速で水面に叩きつけられる竜。

 絶叫をあげて、身体を痙攣させる。

 しかしまだ終わりではない。

 加速を止めた丈一郎は、スタート地点である上空に一瞬で帰還。

 

「ほいっ」


 そのタイミングに合わせて實が水の層を炸裂させる。

 再び上空に打ち上がる竜。

 そこへ丈一郎が加速しながら蹴りを放ち、一緒に降下。

 水面へ叩きつけられる竜。

 これを数回繰り返し、


「■■……■■■……!」


 竜はぐったりと項垂れた後に、ゆっくりと消滅した。


「ま、こんなもんだな」


「おお〜」


 天平と夏鳴太が感嘆した声を漏らす。


「やっぱり『水面圧殺ヨーヨーストライク!』は強力ですね」


「勝手に名前つけンのは良いが統一しろや!」


「勝手に名前つけるのはエエんすね」


 夏鳴太がツッコみ、弛緩した空気が流れる。

 こうして謎の竜との戦いは終わったが、天平たちはまたしてもソレに遭遇することになる。

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