か弱い大ほのかちゃん
その日は学校行事のマラソン大会でした。
校庭内でなく、学校外を利用する大会でした。
今時それは。なのですが昭和時代からの慣例とかで、らしいです。
「ヒィ、ヒィ。……しんどいわぁ」
「ネコネちゃんは元陸上部なのにぃ。フフフ……はぁはぁはぁ」
中学時代ネコネちゃんは陸上部でした。……けど。
「ヒィヒィヒィ。私、短距離、ヒィヒィヒィ。スプリンターだってば、もお。ヒィヒィヒィ……」
と言いながら彼女たちのポジションは今、男子と女子の混ざり合った平均真ん中の上くらい。女子ではトップクラスでかなり優秀な位置にいるのだ。
「帰宅部になって体なまっちゃったんだねーフフフ、……はぁはぁはぁ」
「ヒィ……ま、そうだけど(はのか、わざとらし過ぎ)」
ネコネちゃんの怪訝は正解です。大ほのかちゃん「はぁはぁはぁ」とか言ってるけど付け足し感が半端ない棒読み息切れだ。そもそも「はぁはぁ」以外はいつもの普通の口調だし、なにより汗もかいてないのだ。
「はぁはぁはぁはぁ……と(意味ないセリフの繰り返しで、なんかノドが乾くねぇ……これは逆に辛いかも)」
これって、か弱い女の子ムーブ絶賛解放中だ。
じつは大ほのかちゃん、小学生時点でありとあらゆる身体的成績が大学生アスリーターレベルでした。
「素晴らしい!!」
「君は奇跡だ!」
「天才だ」
そんな大人たちのリアクションに気をよくしてた大ほのかちゃんでしたが、一方でネガティブな言葉も耳にすることになります。
「あの子は化け物」
「異形な存在だから真似するな」
「早熟なだけだ。しょうもない」
そんな言葉にさらされた大ほのかちゃんの選択は……
「いや~ん わかんなーい できなーい こわーいん」
そういう単語の羅列ですべてを拒否し、なんとか今まで普通に生きてきたのです。
それ以来、彼女の身体的成績は並になりました。
ちなみに中学生のころ身体測定のときに、ネコネちゃんは壊れた握力計をもって大ほのかちゃんのとこにいきます。
「ほのか~」
「なに、ネコネちゃん」
「握力もついでにやってこ?」
「いいよ~」
そう言ってネコネちゃんは壊れた握力計を握りしめます。
「ふぅ、90キロかぁ……まぁ普通かな」
全然普通じゃありません。女性なら30キロ前後、男性でも40キロ前後です。
「じゃあ、ほのかもね」
「うん」
ネコネちゃん、実は握力計二つもってました。
大ほのかちゃんに渡したのは壊れてない正常な方です。
「う~ん?」
握力計の数字を確認しながら握りしめる大ほのかちゃん。
『ギシギシギシぃぃ』(握力計の悲鳴)
「ひゃあ! もうこれで精一杯だよー!」
と、差し出した握力計の数値、80キロ! しかも全然余裕だった! (プロレスラーかなぁ熊なのかもしれない)
「ふ~ん、まぁまぁだね~」
「私、か弱いからねー」
「そだねー」
「頑張ったけどネコネちゃんのほうが……フフフぅ?」
弱い子アピールの大ほのかちゃん。ネコネちゃんにマウントします。
それにムカッとしたから彼女の方も白状するのです。
「あっれー? これって!! わたしの使った握力計壊れてるヤツだー!」
「ええ?」
「こっちの正常なのでも一回計ろうっと!」
そう言って大ほのかちゃんから正常な握力計を奪い返し計り直します。
「うーん! 20キロかぁ。まぁそんなもんだよね」
「ええ?」
「握力20っと。ほら、ほのかも80って測定表に記入して?」
「……」
「どしたの?」
「多分だけど、こっちも壊れてるんじゃないかなぁ?」
「何言ってるの?」
「だって、ほらさぁ……(ふんっ!)」
正常な握力計、再び取り戻した大ほのかちゃん。
それを『ぎゅーっ』て握りしめました。
そしたら『っパーン』って握力計が破裂しました。
「!?」
「ほら!! やっぱりコレ、壊れてるよ。とりあえず私の握力18キロだね」
と記入し直してます。
「ほのか、あんた……」
という、中学時代のやり取りをネコネちゃんは思い出していた。
(この子が本気出したらどんだけかなぁ)
とネコネちゃんは思い返してました。
だが、次の瞬間!
「ィやああああああ!!」
「ガゥ! バッウ!! ガぁゥ! ガァルル!!!」
それは現実の出来事。女性の悲鳴と獣の咆哮が聞こえてきた。
「ほのか!?」
と、声を挙げたときには、すでに大ほのかちゃん、すんごい速さでダッシュしてた!!
握力計「ぎぃいやぁあああ!!」→「パァアアアアンン!!」