大ほのかちゃん
「大ほのかちゃん……あれ、怖い」
「大丈夫だよ、ネコネちゃん! あと『大』はいらないよ!?」
ずんずんと近づいてくるトレンチコート姿の不審者。間違いなく汚いおじさん。
留めてない前ボタンを両手で被せて前を隠してる。心なしか息も荒いし目つきも怪しい。
「ふゅうゅうゅふゅうう……」
と不規則な息……
この状況、ただのJK(?)でしかない大ほのかちゃんとネコネちゃんが怯えるのも無理はない。
近づいてくる変質者。
「ハッアっアアアアアぁぁ!!」
ついに、コートを解放し身体を晒すのだ!(やっぱり着てねー!)
「キャッ!」と顔を伏せるネコネちゃん。
しかし、大ほのかちゃんにいたっては「フッン!」と鼻を鳴らす始末。
だって、その変質者、十メートルは手前で股間のモザイクを晒しているのだ。
だからそのモザイクはほとんど姿が確認できない。
「ん?」
やがて変質者もその違和感に気づいた。
そして、ずんずんと近づいてくる大ほのかちゃん。
その変質者、遠近感を錯覚し距離を見間違えたのだ。
「で、デケェ……」
目の前に立ちはだかる大ほのかちゃん。それは身長190くらいの女の子。
それが身長170くらいのネコネちゃんと並んでれば、遠目には二人が170の長身っ娘(大ほのかちゃん)と150くらいのチビっ子に見えなくもない。
だから彼は見あまい大分手前で晒したのだ。だがそれはいまとなってはどうでもいいい。
なぜなら彼(露出狂)は禁句を口にした。
その禁句『デカい』
それは大ほのかちゃんの逆鱗に触れた。
「キぃいシャアアアアア!!」
彼女のおっとりした目つきが、まるでグレートマ〇ジンガーのごとく三角に吊り上がり、頭から湯気がシュポ・シュポ・シュユポポと湧きあがりました。
大ほのかちゃん見参!!
彼女はグレート化(大)しました。
「ち、ちっちゃくないだけだよーぉっ!!」
と、絶叫!
彼女も、その禁句を聞くまでは力のリミッターをセーブしていた。
しかし今それは解放され、振り上げられた右掌は「キュィーォオオオンン」と空を切り裂く唸りを挙げながら変質者への頬へと直撃した。
『ドォオオン!』
おおよそ平手打ちにふさわしくない打撃音を周囲に響かせる。(爆裂煙!!)
そういえば以前、彼女は廃部したボクシング部の部屋にネコネちゃんと忍び込み、つるされたボロボロのサンドバッグを平手打ちにしたことがあった。古かったとはいえそのサンドバッグは『く』の字に曲がって破裂した。その威力たるや大谷選手のフルスイングに匹敵するものであったろう。
だから大ほのかちゃんの平手打ちを喰らった変質者が宙を舞って、アイススケート選手のように空中でトリプルアクセルを決めたのも不思議ではあるまい。
「Urleben……」
その後変質者、x字な足で見事に着地を決めた後、意味不明なセリフ。
そしてふらふらとよろめき、ショボショボした目つきで周囲をうかがうと、やがて電信柱を発見。よたよたと近づき、抱き着くとカクカクと腰を擦り付け始めた。
彼にはそれがいったい何に見えているのだろう……
「変態ー!!」
これは、大ほのかちゃんの大勝利であった。
「大ほのかちゃん通報しといたよ」
「だから『大』はいらないよね!?」
「あ、ごめん」
ネコネちゃんもちゃんと現状をフォローしてた。
しかしである。
この偉業は、大という敬称も付けたくなるではないか。
やがて到着した警察官たち。
「なるほど。この変質者がいきなり陰部を晒したあげく、電信柱と交尾を開始したと……」
「まぁ、そうです」
「すっごく! 怖かったです!」
「ですよねー」
ビンタしたこと話さない大ほのかちゃんと、被害者ムーブ丸出しのネコネちゃん。
「それでですね。今後も事情を伺うことになると思うのですが……」
「かまいません。裁判所にも出頭するんで遠慮なくやっちゃってください」
「ご協力感謝いたします。ではそういう方向で徹底的にやっていきますので……」
「はい。よろしくお願いします」
大ほのかちゃんのお父さん、実は警察庁本部の高官だったりする。
ので要領は大体わかっていた。
そして結局、……表彰されました。
カメラの前で賞状を受け取る大ほのかちゃん。
その後。
「5回目だっけ?」
「3回目だよ!」
ネコネちゃんに反応する大ほのかちゃんでした。
大ほのかちゃんは状況にて大グレート化します。