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第十一章 祝福 chapter01

表参道駅から半蔵門線に揺られることおよそ10分。九段下駅で降りた葉桜とひかるは5番出口へと向かう。階段を上がると、地上には初夏の光に照らされたスターバックスが現れる。そのガラス越しに、先に着いて待っていた三原沙耶香の姿が見えた。

民事裁判での最終決戦から2日後のことである。

2人は店内に入り、注文のドリンクを受け取ると、沙耶香が座るテーブルについた。かつて原宿署の会議室で顔を合わせた3人が再び揃った格好だ。


「こんな個人的に残していたメモが使えるのなら、ぜひどうぞ」

三原管理官がバッグから封筒を差し出した。

「民事裁判でのあの後ですから、このメモの説得力も大きく増しています」

ひかるがおそるおそる口を開く。

「でも……大丈夫ですか? その、お立場とか」

「7月の人事異動で本省に戻ることになりました。外務省の経済局です。だから……大丈夫です」

沙耶香はあっさりと答えた。

「……そうでしたか」

「外務省側が沙耶香さんを守ってくれたんでしょうね!」

ひかるの言葉に沙耶香は微笑む。

葉桜も、軽く頷く。——事情を知る者を遠ざけたい警視庁公安部の判断か、あるいは延焼を嫌った外務省が知らぬ顔を装うために講じた策か。どちらにせよ、ここで言葉にする必要はなかった。

「今回は三原補佐官にずいぶん助けられました。2人の技術者、一つの家族、優秀な町工場と何人もの社員、その家族。皆、大きな傷を負いましたが、必ず再生の歩みを進めることでしょう」

沈黙が落ちた。店内のスピーカーから流れるジャズが、わずかに耳に届く。

「必ず、木賊を救います」

「お願いします。私にできるのは、ここまでですから」


そして東京地裁。民事での激戦を挟み、もつれにもつれた木賊の刑事裁判は、7月に入っていた。この日の511号法廷には被告人の治、弁護人の九印葉桜、検察官の竜崎薫子が揃っている。

葉桜はこの裁判における最後の証拠請求を行った。証拠開示請求によって検察経由で提出された公安七課の省内報告メモ。そしてそれに併せる形で沙耶香のメモ。

裁判長は短い合議の後に「採用します」と告げた。その瞬間、わずかに眉間を寄せた表情が、この非公式な文書の重みを物語っていた。メモには、取り調べやオフィスで公安七課の捜査員たちが交わしたやり取りが克明に記されているのだから。——そう、調書は木賊本人の意思ではなく、彩花を使った脅迫、捜査員主導の作文による部分が大きかったことがはっきりと書かれていた。

「拷問は痛みよりも精神的に。それが民衆が選んだ現代の取り調べスタイルだ」

その生々しい一文までもが、記録に残されていた。

刑事訴訟法にも抵触する重大な不正行為。木賊を起訴する上で最も重要な証拠とされた供述調書は、その任意性を完全に否定された……と葉桜は確信を持って宣言するのだった。

——大方の予想通り、沙耶香のメモが、法の女神・テミスの天秤を木賊側に大きく傾ける決定打となったのである。


こうして、ついに検察・弁護の双方で「証拠調べは終わりです」と確認がなされた。木賊裁判は、次回の薫子による論告求刑、葉桜による最終弁論で終幕を迎える。


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