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第九章 東京地裁の災い chapter06

「実験データを隠し持たれていたか」

「リアクターの件では押されたけれど、覚悟はしていた。でも結論ありき、辻褄合わせの実験であったことは裁判所に響いたはず。まだ負けてないわ」

「次は調書だ。何としてでも内容の任意性と信用性を崩さなければ」

「さあ正念場よ」

彩花が不安そうに問いかける。

「大丈夫でしょうか、ちゃんと話せるでしょうか」

「あなたとお祖父様が取り調べ室で何をされ、何を言われ、何が起こったのか。皆さんはその真実を話してくれました。九印法律事務所は、それを信じています」

長期勾留と接見禁止、そして再逮捕の繰り返し。家族を切り離して心理的に追い込む手法。警察・検察によって展開される最強にして最悪の戦術。そこで生まれた調書の存在について、徹底的に争うのだ。


昼食時、ひかるが見ている事務所のテレビに、アイビー工機の社長・伊吹が映し出された。CMを飛ばすため、録画しながら追っかけ再生するひかるである。

「木賊工業は私たちといいビジネスパートナーになれるはずでした。しかし古い会社によく見られる〝技術一流、経営三流〟の典型です。私が経営体質を調べた時点で、すでに資金繰りは危うく、取引先からも見放されかけていた。正直、このままでは遠からず経営破綻していたことでしょう」

「ふん。もう乗っ取ったつもりなんだろうけど!」

検察によるレクチャー済みだろう、と哲也には教わった。なおのこと、ひかるには伊吹の苦笑いが腹立たしい。次に伊吹は爽やかな笑みを浮かべる。

「だからこそ私たちが救済に入ります。アイビーで立て直してまいりますので、皆さんには安心していただきたい」

「取引先から見放された。倒れるべくして倒れた、だって。まだ経営してる会社に対して言いたい放題じゃん!」

そんな事務員の姿に、今度は哲が苦笑いをしていた。


同日の午後、東京地検。公安部の原田検察副部長の部屋で、薫子は背筋を伸ばして立っていた。

「私も起訴に踏み切るまで苦悩も逡巡もあったが、さすが、ここまでよくやってくれている。次からは調書の任意性を巡る攻防……長引きそうだな。弁護側の鼻息も荒かった」

「大丈夫です」

「勝ちなさい。福田参事官ほか国家安全保障に携わる皆さんもここまでは満足されている」

原田の言葉は、ねぎらいのようでいて、その実、巨大な国家機構の重圧をひしひしと感じさせるものだった。

内閣官房、そして国家安全保障局。そこを源流とする〝力〟は警視庁公安部(公安七課)と検察庁、東京地検へと流れ込んだ。


——MTS法の意義確立、すなわち経済安全保障事件の有罪化は、現代における国防の専任事項として、国家秩序の維持と制度的正統性を担保する最優先命題である


その強いシグナルを受け取ったのが、警視庁公安部外事七課であり、この原田副部長だった。

「国家安全保障局内に作られた経済安保担当の経済班。そして警察OB官僚によって立てられた公安部外事七課。国家の体面とも言えるこれらの成果を守るのが、我々の使命と考えてもらいたい。少々強引であったことは承知の上だ」



国家の体面。



「幸い、と言うのも何だが経済安全保障は被害者の出ていない犯罪だ。だからこそ象徴的となる。国を守る正義のため、この事件は絶対有罪でなければならないのだ」



正義。



「ええ、私は正義の味方です。ね、お忘れなく」

原田は薫子の言葉に安堵した。年齢が近ければ強大なライバルとなっただろうが……。


東京地裁、第3回公判。供述調書についての信用性を問う闘いが始まる。ここで負ければ……二段構えと言いつつ、九印側はいきなり土俵際に立たされていた。

「検察官、証人を」

「公安部外事第七課、早瀬泰久警部を申請します」

薫子の声に応じ、長身の捜査官が証人席に立った。厳格な雰囲気に、傍聴席の空気が張り詰める。

「後半戦の始まりだ。頼むぞ」

傍聴席で四之宮が、右の拳で左の手のひらをばちんと叩いた。


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