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第八章 難攻不落 chapter03

九印法律事務所では、葉桜と哲也が、彩花に拘置所での父と祖父の状況、そして今後の弁護方針について説明を続けていた。彩花の顔には、疲労と不安が色濃く浮かんでいる。ひかるはただ、彩花の隣に寄り添うことしかできなかった。

「浩志さんと治さんは、頑張って黙秘を貫いています。……それが勾留が長期化している理由です」

葉桜が、彩花に現状を伝えた。

「父と祖父は無実なんです。どうして黙っているだけで、こんなに長く捕まってなきゃいけないんですか?」

その問いは、素朴で、そして切実だった。哲也が苦渋の表情で言葉を続けた。

「検察は、公判で確実に有罪を勝ち取るために、自白を何よりも重視します。自白が得られなければ彼らを保釈せず、長期にわたって精神的に追い詰めていくんです」

「今は一刻も早く拘置所という厳しい環境から彼らを解放したい。けれど否認事件では保釈は極めて難しい。逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとして、裁判所はまず却下するの。検察の意見だけを汲んでね」

彩花は愕然とした。無実を主張し、黙秘を続けるという弁護側の戦略が、家族の希望を打ち砕くという矛盾。

「それなら一度認めて、保釈を受けた後で言い分を……」

「そうしたら調書になり、それは向こうの切り札になってしまう。ちょっとやそっとではひっくり返せない。今の裁判では調書はそれぐらい強い武器なのです」

「だったら早く裁判に。法廷で真実を話せば……」

彩花は食い下がった。葉桜は首を横に振った。

「それが、もう一つのジレンマなの。私たちは、この不利な状況で公安の主張を覆すだけの証拠と証人を集めなければならない。そのためには、公判が始まるまでに少しでも時間を稼ぎたい。つまり……」

「黙秘していては保釈はかなわない。保釈のための虚偽の自供は、むしろ向こうの思う壺。一方で、早い解放を目指しながらも初公判までは少しでも時間を稼いで証拠・証人を集めなければならない。被告人と弁護側はこの大いなる制約の中での闘いを強いられるのです。申し訳ない、ご家族を辛い状況に置き続けることに……」

彩花は、幾重にも重なる矛盾の厚みに、息をのんだ。

「この時間的な矛盾こそが、今の日本の司法が抱える大きな問題なんです」

哲也の声が、再び重く響いた。木賊の男たちは、法の城の奥深くで「時間」そのものに蝕まれている。

「どうしたら……」

両手で顔を覆う彩花の声が、重い空気の中に溶けていった。


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